地域的な包括的経済連携(RCEP)協定合意(その1) 執筆日:2022年3月29日

2022-03-29

執筆日:2022 年 3 月 29 日

地域的な包括的経済連携(RCEP)協定合意(その1)

2020 年 11 月 15 日の首脳会議で、RCEP(地域的な包括的経済連携)が合意されました。これにより、世界の人口・GDP の、約 3 割を占める自由貿易圏が生まれることになりますし、日本・中国の初めての経済連携協定の成立という意味で、意義が有ります。

今回は、RCEP の概要について解説します。

1.RCEP の概要

①  参加国

ASEAN10 か国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)、日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランドが参加しています。

2012 年 11 月に、RCEP 交渉を開始し、8 年をかけての合意となりました。

②  コミットメント

コミットメントの内容は、以下の通りとなっています。

物品の貿易(第 2 章)、原産地規則(第 3 章)、税関手続・貿易円滑化(第 4 章)、衛生植物検疫措置(第 5 章)、任意規格・強制規格及び適合性評価手続(第 6 章)、貿易上の救済(第 7 章)、サービスの貿易(第 8 章)、自然人の一時的な移動(第 9 章)、投資(第 10 章)、知的財産(第 11 章)、電子商取引(第 12 章)、競争(第 13 章)、中小企業(第 14 章)、経済協力・技術協力(第 15 章)、政府調達(第 16 章)、紛争解決(第 19 章)、

その他

③  日本産品の RCEP 協定締約国市場へのアクセス

「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に関するファクトシート(外務省・財務省・農林水産省・経済産業省)」には、「工業製品は、14 か国全体で約 92%の品目の関税撤廃を獲得。中国における無税品目の割合が、8%から 86%に上昇すると記載されています。

2.関税軽減と原産地

①  関税引下スケジュール

RCEP の合意事項は、サービス、投資、知的所有権の保護など、多岐にわたっていますが、その中でも、関税の減免が重要な関心事項である事は確かです。中国側の、商品ごとの、関税の引下げ・撤廃スケジュールは、「中国自由貿易区服務網・区域全面经济伙伴关系协定(RCEP)」のサイトで公開されています。

②  原産地基準

RCEP 適用に関する原産地基準は、以下の通りとなっています。

1)判定基準

製品ごとに、異なる判定基準が採用されます。判定に採用される基準を、以下します。

●   CTC

関税分類番号の変更に基づき、適用判定をする方法。

●   RVC

域内原産品使用割合によって、適用判定をする方法。RCEP では、40%以上の基準が採用されています。また、算定方式は、以下の二種類が採用されています。

・控除方式:(製品の FOB 価格-非原産材料の合計)÷ 製品 FOB 価格

・積上方式:(域内原材料+直接労務費+直接経費+利益+他の費用)÷ 製品の FOB 価格

●   WO

締約国内で完全に得られ・生産されたものに関して、適用を認める方法。

●   CC

生産に使用された全ての非原産材料について、統一システムの 2 桁番号の CTC が行われたか否かで、適用判定をする方法。

●   CTH

生産に使用された全ての非原産材料について、統一システムの 4 桁番号の CTC が行われたか否かで、適用判定をする方法。

●   CTSH

生産に使用された全ての非原産材料について、統一システムの 6 桁番号の CTC が行われたか否かで、適用判定をする方法。

●   CR

化学反応による生産品は、当該化学反応が締約国において行われる場合に、原産品と認める方法。

2)累積

RCEP では、「累積」が認められています。つまり、他の締約国内の原産品、他の締約国内での付加価値も、合算して判定をする事が認められますので、複数の締約国で製造される製品に付いて、関税の恩恵享受が容易になります。

3.香港積替え

①  直送要件と例外

「RECP 協定における輸出入貨物原産地管理弁法(税関総署令 2021 年第 255 号)」・第 17 条では、RCEP 優遇に関して、以下の通り規定されています。

輸出加盟国から輸入加盟国に輸送する原産貨物に付いて、以下の何れかの要件を満たす場合、当該貨物は原産資格を有する。

1)その他の国家(地区)を経由していない

2)その他の国家・地区を経由しているが、積卸・保管等の物流活動、その他貨物を輸送する、或いは貨物の良好な状態を保持するために行うべき必要な作業以外に、当該国家・地区で処理を行っておらず、且つ、当該国家・地区の税関監督を受けている。

これは、中国とアセアンの FTA 等にも織り込まれている直送条件です。つまり、優遇条件の適用を受けるためには締約国間の直送が原則ですが、直送便がない等の理由で、他国・地域を経由する場合、当該経由地で加工・販売等が行われないこと(第 17 条の条件を満たすこと)を条件に、適用が認められます。

②  香港経由の必要書類

香港・マカオの積替えの場合、上記を証明するのは「積替確認書(中国語:中转确认书)」であり、例えば、香港の積替えの場合は「各優遇貿易協定における香港マカオ積替え輸入貨物証憑提出に関する事項の公告(税関総署公告 2016 年第 52 号)」・第 5 条に基づき、中検公司(CCIC)、若しくは、香港税関が発行します

ちなみに、中国とアセアンの FTA では、香港積替えの場合は、CCIC 香港が非加工証明(Moving Certificate)を発行し、加工が行われていない事の証明としていました。これは、原産地証明(Form-E)に CCIC 香港が捺印する形でしたが、上記 52 号公告・第 1 条により、2016 年 10 月 1 日より、「積替確認書」を発行する形に変更されました(この結果、現在は、RCEP と中国アセアン FTA は同様の証明書となります)。

尚、同公告第 4 条には、以下の何れかの輸送書類を提出できる場合、税関は、積替確認書の提出を要求しないと規定されています。

1)空運、或いは海運輸入貨物の場合、国際船輸送経営者、及びその委託代理人、民用航空輸送企業、国際速達業務を経営する企業等が発行する一つの輸送書類。

当該輸送書類は、同一ページに始発地が輸入貨物の原産国・地区を記載し、且つ目的地として中国本土と記載する必要がある。

内陸国家・地区原産の海運輸入貨物の場合、船積み地を海運始発地とすることが認められる。

2)原産地電子データ交換を実施している自由貿易協定におけるコンテナ輸送貨物の場合、当該貨物の輸送過程において、コンテナ番号・シール番号が変更されていない事を証明する、全行程の輸送書類(B/L、AWB 等)を提出する事もできる。

また、「香港・マカオ積替え貨物原産地管理の一層の合理化の要求に関する公告(税関総署[2017]26 号)」では、輸入者が積替確認書を提出する必要がある状況において、中国本土税関が、既に積替確認書の電子情報を受領し、且つ、輸入者が申告する内容と一致する場合、中国本土税関は積替確認書の原本提出を要求しないと規定されています。

ただ、何れにしても、最終的には輸入地の税関の判断となりますので、この点は、所管税関に確認の上、必要書類を準備する必要が有ります。