中国における休眠

2022-07-21

中国には、休眠規定が有りませんでしたが、「市場主体登記管理条例(国務院令 2021 年第 746 号)」に、これが織り込まれました。

1.市場主体登記管理条例

「市場主体登記管理条例」は、2021 年 4 月 14 日の国務院第 131 回常務会議を通過し、2022 年 3 月 1 日より施行されています。市場主体とは、法人、パートナーシップ、非法人型の経営組織等の総称で、これらの組織の設立、変更、抹消などに関する登記手続に付いて規定した条例です。その第 30 条には、以下の通り、休眠に付いて規定されています。

  • 自然災害、事故災害、公衆衛生問題、社会安全問題により、経営上の困難が生じた場合、市場主体は、法律、行政規則に別途の規定がある場合を除き、一定期間の休業を決定することができる。
    市場主体は、休業前に、法律に基づき、社員と労務関係を協議し、関連事項を処理しなくてはならない。
    市場主体は、休業前に登記機関(市場監督局:筆者注)で備案しなくてはならない。登記機関は国家企業信用情報公示システムを通じて、休業期間や法的文書の送達住所を公示する。
    休業期間は 3 年を超えてはならない。休業期間中に事業活動を行った場合は、事業を再開したものとみなし、国家企業情報公示システムを通じて、社会に公示しなくてはならない。
    市場主体の休業期間は、法律文書の送達場所を、住所・主たる経営場所に代替することができる。

2.中国における休眠

①  休眠制度と今後の見通し

休眠とは、行政機関への届出を前提として、会社を休業させ、一定の手続(税務申告と最低限の行政機関報告)だけで会社を存続させる制度です。

休眠するのは、会社経営は苦しいものの、解散するまでの決心がつかない場合で、休眠により、暫定的に活動を停止し、経費支出を止める事で、状況判断の時間を確保することが可能になります。その後、経営環境が好転すれば、会社を復活させることができるため、再度、一から始める手間は省けます。

今まで、中国には休眠制度が無く(個体工商戸=個人商店を除く)、この方法の採用は不可でしたが、これにより、休眠制度が開始される可能性がありますし、市場監督総局も、2022 年の中期的課題の一つとして、休眠制度の実施を掲げています。

ただ、条例で定められているのは、災害、その他の特殊な場合ですので、実務的には、利用できるケースは制限される可能性があります。何れにしても、この記載だけでは、詳細が判断できず、今後、個別の条例・通知が公布されるのを待つ必要があります。

②  現在の実務運用

上述の通り、市場管理主体登記管理条例施行以前は、休眠制度は無く、また、会社法・第 211 条には、会社設立後、やむを得ない理由が有る場合を除き、6 ヶ月超の期間、連続して活動を停止した場合、登記機関が、会社の営業許可証を取り消すことができると規定されています。よって、6 か月超の活動停止は、会社の清算に繋がります。但し、実務面をみると、管理状況には、一定の変化が生じています。

過去には、数か月収入が無い状況が続くと、税務機関が税務登記の抹消を指示するケースが有り、会社清算に繋がりましたが、最近の税務機関でのヒアリング(上海市・広州市)では、共に、「収入が無い状況が続いても、毎月、適切に税務申告をすれば(収入ゼロの申告)、問題ない」との回答でした。また、両地域の市場監督局も、「会社が、適切に年度報告(年一回のオンライン手続)を行い、且つ、会社の担当者と電話連絡ができる場合は、通常、営業許可証の取消までは求めない」との事でした。

特に、2020 年春(新型肺炎の影響が有った状況)のヒアリングでは、「新型肺炎は特殊事情であるため、状況説明をすれば、感染防止危険終了まで、活動停止を認める」と市場監督局が発言するなど(広州市)、対応は、それなりに柔軟になってきていました。

ただ、それでも、これらは、住所(オフィス)と最低人員が有ること、税務申告(増値税は月次・企業所得税は四半期)の実施が前提となっていましたので、本来的な休眠の可能性が出てきたのは意義深い事と言えます。