外資企業の無償減資と税務リスク 執筆日:2022年1月9日

2022-01-09

執筆日:2022 年 1 月 9 日

外資企業の無償減資と税務リスク

資本金を減額して欠損填補に充てる行為を無償減資と言いますが、中国における外資企業の無償減資の可否と注意点について解説します。

1.外資企業の減資規制緩和

①  規制緩和の概要

外資企業の減資は徐々に規制緩和が実施され、外商投資法施行以降は事例が増えています。

旧外資三法(独資企業法、中外合資企業法、中外合作企業法)は、施行当初は減資を禁止していましたが、2001 年の WTO 加盟前に、原則禁止の形に、若干緩和されました。

その後、2016 年 10 月 1 日に、非ネガティブリスト外資企業は商務主管部門の審査が免除され(市場監督局が判断)、更に、2020 年 1 月 1 日の外商投資法施行(三資企業法廃止)に伴い、外資企業の減資を禁じる法律は無くなりました。

現在では、外資企業の減資に際して、商務主管部門の手続は不要であり、まず新聞で減資に関する公告(告知期間 45 日間)をし、異議申し立てが無ければ、市場監督局に営業許可証の変更(登録資本金の減少)を申請できます。

この際の受理要件を、上海市市場監督局に確認した結果は、「債務超過になっていない、且つ、減資後も、経営上に必要な流動資金も確保できている場合」は、減資申請を認めるとの回答でした。

②  有償減資と無償減資

有償減資とは、実際の資金の払い戻しを伴う減資。一方、無償減資とは、資金の移動は無く、単なる会計処理上(資本金を減額して、欠損金を減らす)の減資です。

では、何れが難しいかというと、無償減資です。

無償減資は、上述の通り、資金の移動を伴わないため、認められやすいのではないかという印象を持ちがちですが、そうではありません。筆者の実務経験による感想に過ぎませんが、審査機関(以前は商務主管部門。現在は市場監督局)は、「登録資本金減少の是非」という観点のみで審査しますので、資金の回収を伴うか否かには関心を持ちません。

その結果、財務体質が良く、資金が潤沢であることが、減資申請受理の前提になる訳です。その意味では、欠損金がある事が前提となる無償減資は、資金の払い戻しを伴う有償減資よりも難しくなります。

2.無償減資に伴う税務上の問題

上記1の通り、難易度が高い無償減資ですが、上海市市場監督局の回答でも、「債務超過ではない」というのが減資の受理要件となっていますので(欠損状況でも、自己資本がプラスであれば要件を満たす)、財務状況が良ければ、つまり債務に比して保有資産が潤沢であれば、受理される可能性は有ります。ただ、この場合、税務上の問題が生じえます。

一般に、中国の税務関係者は、「無償減資をした場合、その会社は債務免除益を計上し、課税所得として処理しなくてはならない」と解釈しています。  これに関する明確な規定はありませんが、大連市税務局が、HP の Q&A で、以下のような解説をしています。

●  名義減資(筆者注:無償減資の意味)による未処分損失の補填に付いての税務処理は、二段階に分割するべきである。まず、出資者の減資により投資損益を認識する事。同時に、被投資企業は、実際にこれを支払うことができないため、未払金の計上が行われること。次に、払込資本金が返済されないため、企業の未払金が減少し、企業の収入額に加算されるということである。

少々わかり難い表現ですが、資本金を減額した場合、一旦、その部分を出資者に対する未払金として計上すべき。但し、無償減資は、その支払いを行わないため、債務免除益が発生し、それが課税所得を構成するということです。よって、被投資企業に十分な税務欠損金が無い限り、課税所得が発生するため、注意すべきです。

因みに、同大連市税務局の回答の中には、「被出資企業の税務上の資本金額は、持分譲渡、若しくは清算の段階ではじめて減額できる」と記載されています。つまり、無償減資をした場合でも、その後の持分譲渡益の計算、清算配当金の課税に際しての計算に際しては、減資前の金額を、出資原価として処理できることになり、これで前述の処理との整合性が取れます。

尚、中国内に出資者が要る場合の出資者側の損金処理の問題ですが、国家税務総局公告 2011 年第 34 号・第 4 条には、「被投資企業に発生した欠損は、被投資企業が規定に基づき繰越し填補する。投資企業は投資原価を減額してはならず、また投資損失も認識してはならない」と規定されています。

つまり、投資先の会社が無償減資をした場合でも、出資者は評価損を損金として処理してはならない(未実現の投資損失を損金算入してはいけない)ことを意味しています。


水野真澄(水野コンサルタンシーグループ代表)