中国個人所得税法:非居住者に対する課税方式の変更 執筆日:2019年4月18日

2020-05-31

中国個人所得税法: 非居住者に対する課税方式の変更

「中国内に住所がない個人の居住時間判定基準の公告(財政部・税務総局 2019 年第 34 号)、以下、34 号公告」・「非居住者個人及び住所のない居住者個人の関連個人所得税政策に関する公告(財政部 税務総局公告 2019 年第 35 号)、以下、35 号公告」が、2019 年 3 月 14 日に公布され、2019 年1月1日に遡及して施行されています。

同時に、今まで、非居住者・外国人に対する課税の根拠となっていた、「国内において住所のない個人が賃金給与所得を取得した際の納税義務に関する国家税務総局の通知(国税発[1994]148 号)」、「中国内に住所のない個人に対して租税協定及び個人所得税法を施行するにあたっての若干の問題に関する通知(国税発[2004]97 号)」などが失効となり、課税方法に変更が見られます。ここでは、非居住者に対する課税方法の変更に付いて解説します。

1.非居住者に対する租税条約の適用と滞在日数と勤務日数

35 号公告には、「租税条約締結国の居住者は、租税条約の優遇を享受するか、租税条約の優遇を享受せずに税金を納付するかを選択できる」と規定されています。

租税条約は国内法に優先しますので、この規定は当然ではありますが、租税条約締結国の居住者は、183 日ルールの適用などが認められる点が、改めて確認された形となっています。

① 滞在日数と勤務日数 ****

1)滞在日数

中国滞在日数は、租税条約に定められた 183 日ルール適用に際して(租税条約非締結国の居住者の場合は、個人所得税法実施条例に基づき 90 日超で、納税義務が発生)重要となります。

この滞在日数は、かつては、入出国日を共に 1 日とカウントしましたが(国税発[2004]97 号・失効)、これが、34 号公告により、入出国日(中国滞在が、24 時間に満たない日)は、双方滞在日数としてカウントしない事とされました。

結果として、入出国日の 2 日間が滞在日数から除外されるため、納税者にとっては有利な制度変更となっています。

2)勤務日数

上記1)に基づいて、中国での納税義務が発生した非居住者は、中国で勤務した日数に基づき税額を計算しますが(給与総額に対して、個人所得税法に基づき算定した税額に、勤務日数 ÷ 当該月の日数を乗じて、中国での税額を算定)、この際の勤務日数は、入出国日は、共に 0.5 日とカウントします。

これは、かつての国税発[2004]97 号の規定と同様です。

② 国内法に基づく場合(租税条約非適用の場合)

租税条約締結国の居住者は、租税条約の適用(183 日ルールなど)を受ける事ができますが、租税条約非締結国の居住者、若しくは、租税条約締結国の居住者ではあるものの、恩恵を受けない事を選択した場合、中国国内法に基づき、以下の課税方法が適用されます。

因みに、租税条約の適用を受ける場合は、日本居住者の場合は、暦年 183 日以内であれば、中国での納税は不要ですが、それ以内の滞在であっても、中国国内給与の支給を受ける場合は適用が受けられず、課税が生じますので、以下の計算式は、その際の参考にもなります。

1)滞在期間が 90 日以下の場合

滞在期間が年間 90 日以下の場合、中国国内で給与が負担されなければ、中国で納税義務はありません。中国内負担給与がある場合、以下の算式で、課税対象給与を算定します。

当月課税対象給与=

当月給与総額x(当月国内支払い給与 ÷ 当月国内外給与合計額)x(当月国内勤務日数 ÷ 当月日数)

例えば、当月の中国外給与が 20,000 元、中国内給与が 10,000 元。中国内勤務日数が 10 日、当月日数が 30 日の場合、30,000 元x(10,000 元 ÷30,000 元)x(10 日 ÷30 日)= 3,333 元が当月課税対象給与になります。

これは、月次基礎控除 5,000 元の範囲内なので、納税不要という事になります。

中国内で 10,000 元が支払われているにも拘わらず、納税不要となるのは不思議に思えますが、上海市税務局に確認した結果では、この理解で正しいとの回答です。但し、制度変更前も、類似の計算式(以下参照)が採用されていましたが、あえてこれを使用せず、中国で負担された 10,000 元をベースに個人所得税を計算するケースが少なからず見受けられました。制度変更後も、同じ状況になる可能性はありますが、この点は、実務状況の確認が必要になります。

● 変更前(国税発[1994]148 号)

制度変更前の計算式は、以下の通りでした。

類似の考え方ではありますが、一旦、給与総額をベースに個人所得税額を出したうえで、給与負担割合と勤務日数割合で、納税額を算定する方法が採用されていました。

当月納税額 =

(当月給与総額 x 適用税率-速算控除額)x(当月国内支払い給与 ÷ 当月国内外給与合計額)x(当月国内勤務日数 ÷ 当月日数)

上記の前提で、(旧税制では、現在より基礎控除が 200 元少なく、適用される税率も高かったのですが、金額の比較を容易にするために)現在の基礎控除・税率を前提に計算すると、以下の通りとなります。

当月所得額=給与総額(30,000 元)-基礎控除(5,000 元)= 25,000 元

納税額=

{25,000 元x 20%(税率)-1,410 元(速算控除)}x(10,000 元 ÷30,000 元)x(10 日 ÷30 日)= 398 元

2)滞在日数が 90 日超、183 日未満の場合

中国国内法では、年間滞在日数が 183 日未満の外国人(住所の無い個人)は、中国国内源泉所得課税の対象であるため、以下の算式で、中国源泉所得部分を算定して納税します。

当月課税対象給与=当月給与総額x(当月国内勤務日数 ÷ 当月日数)

これを、上記 ① の前提と同様の給与負担額と勤務日数で算定すると、以下の通りです。

当月課税対象給与額= 30,000 元x 10 日 ÷30 日= 30,000 元x 0.33 = 9,900 元

これに、基礎控除(5,000 元)、税率(10%)、速算控除(210 元)を考慮すると、税額は、280 元となります。

● 変更前(国税発[1994]148 号)

制度変更前は、国内源泉所得課税・全世界所得課税の分かれ目が、現在の 183 日以上・未満ではなく、満 1 年居住か否かでしたので、現在の制度の、当該条件(90 日超、183 日未満)に該当するのは、旧制度の納税年度に 1 年未満居住の非居住者という事になります。

この場合も、やはり、給与総額に対して個人所得税を算定し、その上で、国内勤務日数を乗じる方法が採用されていました。

納税額 =(当月の給与総額 x 適用税率-速算控除額) x (当月国内勤務日数 ÷ 当月日数)

上記1)と同様の前提で、また、現在の基礎控除・税率を使用して計算すると、税額は以下の通りとなります。

当月納税額=

{(30,000 元-5,000 元)x 25%-2,660 元}x(10 日 ÷30 日)= 3,590 元x(10 日 ÷30 日)= 1,197 元

3)滞在日数が 183 日以上の場合

個人所得税法上は、年間 183 日以上中国に滞在する外国人は居住者扱いとなります。満 183 日滞在が連続 6 年(全世界所得課税)か否か(国内源泉所得課税)で、税額計算は、以下の通り異なります。

<満 6 年未満の場合(国内源泉所得課税)>

国外勤務期間に相当する分を控除する事ができます。計算式は、以下の通りです。

当月課税対象給与=当月給与総額x{1-(当月国外支払い給与 ÷ 当月国内外給与総額)x(当月国外勤務日数 ÷ 当月日数)}

= 30,000 元x{1-(20,000 元 ÷30,000 元)x(20 日 ÷30 日)}= 16,650 元

これに、基礎控除(5,000 元)、税率(10%)、速算控除(210 元)を適用すると、税額は、955 元となります。

<連続滞在 6 年超の場合(全世界所得課税)>

連続滞在 6 年超の場合は、全世界所得課税の対象となるため、中国内・中国外の報酬全額を対象として、中国で個人所得税を納税する必要が有ります。

よって、当月課税対象給与額は 30,000 元。

これに、基礎控除(5,000 元)、税率(20%)、速算控除(1,410 元)を考慮すると、税額は、3,590 元となります。

③ 非居住者の納税のタイミング

租税条約締結国の居住者の場合 183 日、それ以外の場合は 90 日に達した月の翌月 15 日までに、最初の月からの個人所得税をまとめ納付すれば、延滞金は免除されます(その後は、毎月申告・納税)。これは、従来と同様です。

但し、35 号公告により、日数に達するか否かを事前判定し、それに基づき申告・納税を開始するのが原則であると規定されました。結果として日数に満たなかった場合は、還付申告が認められます。

2.非居住者が高級管理職(総経理など)を務める場合

① 非居住者の駐在員事務所代表兼務 ****

非居住者が、中国内組織の高級管理職を兼務する場合、特殊な課税ルールが適用される場合があります。

代表的な例が、駐在員事務所(常駐代表処)の代表(首席代表・一般代表)として登記された非居住者で、この場合、183 日ルールの適用が認められず、滞在日数が年間 183 日以内であっても、滞在日数に応じて、個人所得税を徴収されます。

これは、かつては、国税発[1994]148 号(失効)に基づくものでしたが、同じ内容が、35 号公告に、以下の通り規定されています。

● 国内雇用主が、所得税(企業所得税の事:筆者注)について査定徴収方法を採る、または営業収入がなく所得税が徴収されていない場合、住所を有しない個人が当該雇用主のために勤務して取得した給与所得は、当該国内雇用主の会計帳簿の中に記載されるか否かに拘わらず、共に当該国内雇用主が支払った、または負担したと見なす。

つまり、駐在員事務所のような、非課税、若しくは、経費課税(みなし利益課税)方式が適用されている組織に付いては、課税所得算定上、信ぴょう性のある証憑が存在しないため、一定の割り切に基づいて給与の負担判定をする事になります。この結果、実際には、中国内組織(駐在員事務所など)が、当該非居住者の給与を負担していないにも拘わらず、「負担した」と見なされ、183 日ルールの大前提である「中国内で給与が負担されていない」という条件を満たさなくなるため、適用不可となるものです。

この様な課税は、今後も継続されることになります。

② 非居住者の現地法人総経理・副総経理兼務

非居住者が、中国内法人の総経理・副総経理などを兼務するときも、滞在日数に拘わらず、中国で個人所得税を納税するよう要求を受ける場合があります。

これは、国税発[1994]148 号(失効)に、非居住者が中国法人の高級管理職員である場合、中国内企業が支払った報酬は、一律課税対象とする事。また、中国国外の企業が支払った報酬については、183 日ルールを適用せず、滞在日数に応じた納税を行う事を定めているためです。

これは、148 号が、高級管理職を役員として扱っているためですが(役員を務める会社の所在地に課税権が認められる)、その後、国税発[2004]97 号(失効)で、非居住者が高級管理職を兼務する場合の扱いは、各国と締結した租税条約の内容に応じて判断する事となり、これは、35 号公告にも踏襲されています。

日中租税条約は、高級管理職を役員とは扱っていないため、日本居住者が、中国法人の、総経理・副総経理などを兼務する場合、その報酬は、賃金給与として扱われ、183 日ルールの適用が認められます。

よって、中国内での給与の支払い・負担がなく、中国滞在が、暦年 183 日以内である場合は、中国での個人所得税課税は免除されます。

当然、中国国内で報酬を受け取る場合は、滞在日数に拘わらず、その部分に対して、個人所得税の納税義務は発生します。

③ 非居住者の現地法人総経理・副総経理などが、租税条約の適用を受けない場合

租税条約非締結国の居住者、若しくは、締結国の居住者ではあるが、租税条約の恩恵を受けない事を選択する場合は、中国の国内法に基づいて、以下の課税方法となります。

1)滞在日数年間 90 日以内の場合

中国内で報酬が支払い、負担されない限り納税不要(中国で支払われた部分に対してのみ納税)となります。

支払われた場合は、その部分を所得とする事が規定されていますので、仮に、当該月に中国内で 10,000 元、国外で 20,000 元の報酬を受領した場合は、以下の通り個人所得税を計算する事になります。

課税所得= 10,000 元-5,000 元(基礎控除)= 5,000 元

納税額= 5,000 元x 10%(税率)-210 元(基礎控除)= 290 元

2)90 日超、183 日未満の場合

中国国内法では、年間滞在日数が 183 日未満の外国人(住所の無い個人)は、中国国内源泉所得課税の対象であるため、以下の算式で、中国源泉所得部分を算定して納税します。

当月課税対象給与=当月給与総額x{1-(当月国外支払い給与 ÷ 当月国内外給与総額)x(当月国外勤務日数 ÷ 当月日数)}

= 30,000 元x{1-(20,000 元 ÷30,000 元)x(20 日 ÷30 日)}= 16,650 元

これに、基礎控除(5,000 元)、税率(10%)、速算控除(210 元)を適用すると、税額は、955 元となります。

これは、課税年度に 183 日以上滞在した場合で、連続 6 年未満滞在の一般社員兼務と同様の算式となります。

3)183 日以上の場合

高級管理職が、納税年度に 183 日以上滞在する場合の算式は、35 号通知には規定されていません。一般社員兼務に準じて対応するものと思われます。

3.賞与に対する個人所得税 ****

外国人(住所の無い個人)が受領する賞与は、勤務期間に応じて、所得源泉(国内外所得源泉)を判定する事ができます。

国内源泉所得課税の対象となる外国人(年間滞在 183 日未満、及び、年間 183 日以上滞在している状態が 6 年未満であり、所管税務局に国外所得課税免除申請が受理された外国人)は、「賞与対象期間x国内勤務日数 ÷ 対象期間の日数」の公式で、賞与に含まれる国内源泉所得部分を算定します。

中国に居住する外国人(中国内企業との間に雇用関係がある外国人)の場合、国内雇用主のために提供する役務は国内源泉所得と見なされますし、国外の祝日・休暇・教育訓練などの日数も、国内勤務日数に含まれます。よって、国外勤務日数は限定的となりますが、非居住者の場合は、実際の滞在日数に応じて、所得源泉を案分する事ができるので、制度変更前より有利になります。

また、非居住者が受領する賞与に対する課税には、年に 1 回のみ、以下の計算方式で税額を算定する事が認められます。

賞与に関する税額={(賞与金額 ÷6)x適用税率-速算控除}x 6

つまり、賞与金額を 6 で割り、基礎控除を適用せずに、個人所得税額を算定した上で、その金額を 6 ヶ月に分けて納税する方法です。

これにより、適用税率が低くなり、また、6 回に分割して納税する事が認められます。

参考:非居住者税率表(月次所得対象) ****

(非居住者个人賃金・給与所得、役務報酬所得、ロイヤリティフィー所得適用)****

等級

            </td>
            <td width="312">

課税所得額

            </td>
            <td width="96">

税率(%)

            </td>
            <td width="132">

速算控除額

            </td>
        </tr>
        <tr>
            <td width="60">

1

            </td>
            <td width="312">

3,000 元未満

            </td>
            <td width="96">

3

            </td>
            <td width="132">

0

            </td>
        </tr>
        <tr>
            <td width="60">

2

            </td>
            <td width="312">

3,000 元超 12,000 元以下の部分

            </td>
            <td width="96">

10

            </td>
            <td width="132">

210

            </td>
        </tr>
        <tr>
            <td width="60">

3

            </td>
            <td width="312">

12,000 元超 25,000 元以下の部分

            </td>
            <td width="96">

20

            </td>
            <td width="132">

1,410

            </td>
        </tr>
        <tr>
            <td width="60">

4

            </td>
            <td width="312">

25,000 元超 35,000 元以下の部分

            </td>
            <td width="96">

25

            </td>
            <td width="132">

2,660

            </td>
        </tr>
        <tr>
            <td width="60">

5

            </td>
            <td width="312">

35,000 元超 55,000 元以下の部分

            </td>
            <td width="96">

30

            </td>
            <td width="132">

4,410

            </td>
        </tr>
        <tr>
            <td width="60">

6

            </td>
            <td width="312">

55,000 元超’80,000 元以下の部分

            </td>
            <td width="96">

35

            </td>
            <td width="132">

7,160

            </td>
        </tr>
        <tr>
            <td width="60">

7

            </td>
            <td width="312">

80,000 元超の部分

            </td>
            <td width="96">

45

            </td>
            <td width="132">

15,160

            </td>
        </tr>
    </tbody>
</table>

上記は、5,000 元の基礎控除適用後の金額に適用されます。