【水野コンサルタンシー中国ビジネス情報】ダイジェスト版Vol.66

2016-03-17

**【INDEX】 ** **【中国ビジネス・トレンド】 **[**持分譲渡の実務上の注意点**](#1)

**【水野真澄セミナー情報】
**3 月 31 日静岡市 セミナー「これからの中国事業展開と事業再編の考え方」
第 25 回中国ビジネス講習会(横浜 4/6、広州 4/14、上海 4/22)

**【書籍】
**中国担当者マニュアルステップワンシリーズ、中国・増値税の制度と実務

【内部統制コラムと関連サービスのご案内】
フローチャートを作成し、内部統制の仕組みをチェックして不正の防止・牽制に役立てる


**【中国ビジネス・トレンド】
**

**持分譲渡の実務上の注意点
**
持分譲渡は撤退・買収に関して重要な組織再編の方法です。
持分譲渡のメリットは、手続に要する時間が、新設・閉鎖に比べて短く簡便である事が挙げられます。
勿論、デメリットや注意を要する事項もありますので、これらを実務面も踏まえて解説します。

**1.外資企業の持分譲渡の実務
**
**● 持分譲渡許可
** 外資企業の持分譲渡に関する根拠法は、「外商投資企業出資者の持分変更に関する若干の規定(外貿易経済合作部・国家工商行政管理局[1997]外経貿法発第 267 号)」となります。
当該規定に基づいて、持分譲渡の対象となる法人の原認可機関(商務主管部門)に、出資変更・定款変更等の許可申請を行う事になります。社名変更が必要な場合は、この時点で同時に申請を行います。

● 持分譲渡代金決済
持分譲渡代金は当事者間(新旧出資者間)で直接決済します。また、決済実績は持分譲渡の手続に際して政府機関に提示する必要はありません。

新旧出資者の双方が外国企業、つまり、日本企業同士の様な場合は、決済は日本内で完結しますので、決済条件は自由に設定できます。
一方、日本企業が中国企業(在中外資企業を含む)に譲渡する場合、持分譲渡代金は中国から日本に対外送金される事になります。この送金は、従前は、外貨管 理局の許可が別途必要でしたが、「直接投資外貨管理政策の一層の改善と調整に関する通知(匯発[2012]59 号)」により、外貨管理局の許可は不要とな りました。現在では、商務主管部門の持分譲渡認可情報を主管の外貨管理局に登記(備案)するだけで対外送金が可能であるため、送金実務が簡便になっていま す。

但し、実務上、下記で解説する納税を行わない限り中国から日本への送金が認められないため、後払いにならざるを得ない(全ての手続完了後の代金回収にならざるを得ない)点が、譲渡側としては不安要素になります。

**● 納税実務
1)課税所得の算定と税額
** 日本企業が中国法人の持分を譲渡して譲渡益を得た場合、企業所得税法第 3 条・第 3 項に規定する「非居住者企業が機構を構築しないで稼得する中国内源泉所得」に該当します。

同法第 4 条には、この所得に対して 20%の税率を設定していますが、同法実施細則第 91 条で、税率が 10%に軽減されています。
更に、同法第 16 条には、企業が資産を譲渡する場合、資産の帳面簿価を課税所得から控除することができると規定されています。

以上の結果、非居住者企業が持分譲渡を行った場合、譲渡益(譲渡額から出資原価を控除した金額)に対して、10%の企業所得税課税が行われる事になります。

尚、出資した通貨と譲渡した通貨が異なる場合、どの様に計算するかという事に付いては、「非居住者の持分譲渡所得に対する企業所得税管理を強化することの通知(国税函[2009]698 号)」・第 4 条に、以下の通り規定されています。

【持分譲渡所得を計算する場合には、外国法人により譲渡される持分の居住者企業への投資時(新規出資した場合)、若しくは、現出資者から当該持分を購入する時(持分購入により取得した場合)の貨幣で、持分譲渡価格、及び持分原価を計算しなくてはならない。】

つまり、出資した通貨で課税所得を確定させる(米ドルで出資した場合は、売却通貨に拘わらず米ドルで所得を確定させる)事になります。

譲渡価額は当事者が自由に決められますが、税務上は適正時価に基づく取引が原則となりますので、取引価額の妥当性に関しては所管税務機 関(持分譲渡の対象となる外資企業の所管税務機関)が検証を行います。この際、通常は、資産鑑定評価報告書の提示が求められますので(特に、不動産などの 様に含み益が生じる可能性が高い資産を保有している場合)、事前の準備が必要となります。

持分譲渡に対する課税に付いては、納税義務者は前出資者(持分を譲渡する事によって、課税所得を得た非居住者)となりますので、どの様に納税を行うか、という問題が生じます。

2)納税実務
税務機関は対外送金による納税を受け付けませんので、中国内での人民元払いが必要となりますが、通常は、持分対象となる企業が支払い、前出資者が納税資金分を日本より送金する(銀行管理により、順番は前後する可能性有り)事になります。

この精算送金は、国際間の立替金決済になりますが、「非貿易項目外貨決済管理規定(匯発[2013]30 号)・第 6 条・第 9 項に、関連関係を有する国内外の機構の立替決済を認めていますので、原則として決済可能です。

但し、管理内容に地域差・銀行管理の差が有るため、具体的な手続に付いては事前確認が必要となります。

2.その他の持分譲渡の注意点
**● 持分売買上のリスク
**持分譲渡に際しての懸念事項としては、譲渡側は代金回収、譲受側は購入した法人の隠れ債務の懸念かと思います。

隠れ債務の問題とは、開示された財務諸表、資料などに表れていない問題(含み損、債務保証などの偶発債務、その他の企業内の問題など)が無いかという点です。
この点に付いては事前に財務・法務ディユーディリを行い、開示されていない内容が起因となる問題が買収後に発生した場合には、前出資者が責任を負う旨の瑕疵担保責任を譲渡契約上織り込むというのが対処法となります。
但し、実際にこの条件を元に訴訟を起こした場合、賠償金を徴収する事ができるかという実務上の問題があります。

また、譲渡側に付いても、中国外で外貨管理が自由な国の企業(他の日本企業など)に売却する場合は、一部前払い条件を設定する等のリスク回避方法が取れま すが、中国企業に売却する場合は、上記1.の持分譲渡代金決済で解説した通り、後払い条件の代金回収とならざるを得ないという問題があります。

この様な点を考慮すると、やはり、信頼関係を構築しにくい相手先とは、譲渡側も譲受側も取引がしにくいのは確かでしょう。

● 雇用関係
持分譲渡は出資者の変更であり、対象となる会社自体は存続していますので、雇用関係は継続します。よって、経済補償金の支払い義務はありません。
一方、持分譲渡を理由とした解雇や労働条件の改悪も認められません。

以上


**【水野真澄セミナー情報】
**
**
■ 3 月 31 日(木)静岡市 「これからの中国事業展開と事業再編の考え方」
**
静岡を拠点に県内企業のグローバルビジネスをサポートしている(株)ありがとう様との業務提携を記念し、3 月 31 日に静岡市にて共同主催セミナーを開催いたします。

<概要>
中国が WTO に加盟してから 15 年、様々な制度の変更や規制の緩和・撤廃が進められ、それに合わせて日本企業の中国ビジネスも多様化、複雑化しています。
本セミナーは、中国ビジネス制度の最新状況をキャッチアップしたうえ、皆様のビジネスにお役立ていただくことを目的としています。
セミナー前半では、静岡県内企業様の中国ビジネス事情や動向について、多数の情報・ヒアリングをもとに分析した結果を報告いたします。
後半では、これからの中国ビジネスとして注目される、インターネットの活用、越境 EC のほか、香港やアセアンなど中国と密接な関係にある国・地域の活用、さらに中国ビジネスに適合する組織の再編について解説いたします。

<セミナー情報>
日時:2016 年 3 月 31 日(木)13:30 ~ 16:30(13:00 開場)
会場:静岡商工会議所 静岡事務所会館 404 号室 ※静岡駅から徒歩 3 分
参加費:(税込)3,000 円/1 名様
定員数:15 名
主催者:(株)ありがとう様、弊社共同主催

<プログラム>
■ 県内企業の中国ビジネス事情
講演者 株式会社ありがとう 櫻井渉(13:30 ~ 14:00)

■ これからの中国事業展開と事業再編の考え方
講演者 水野コンサルタンシー 水野真澄(14:00 ~ 16:15)

第 1 部 中国市場の位置付け
1.対中直接投資の推移
2.ASEAN シフトは中国撤退を伴うものか
3.非製造業

第 2 部 中国のビジネスモデル
中国における外資企業のビジネスモデルの変化
1.製造業
2.流通業
個別ビジネスモデル
1.インターネットの補助的利用
2.越境 E コマース
3.保税展示販売
4.ASEAN との FTA の活用
5.香港の地域統括会社としての活用

第 3 部 中国組織の効率化とビジネスモデル
1.外資企業の合併
2.外資企業の支店(分公司)
3.外資企業の持分譲渡(買収、エグジット)
4.外資企業の国内投資
5.製造委託(販売会社への転換と中国企業などへの製造委託)

<その他>
セミナー参加者を対象とした弊社代表水野真澄による無料面談会を 4 月 1 日に開催します。
日時:4 月 1 日(金)10:30 ~ 14:00 ※5 組先着順 各 30 分
(10:30 ~ 11:00、11:00 ~ 11:30、11:30 ~ 12:00、13:00 ~ 13:30、13:30 ~ 14:00)
場所:静岡市清水産業・情報プラザ 7 階交流室( http://www.siip.jp/index.html

**【お問合せ・お申込み先】
** 水野コンサルタンシー日本代表事務所
横浜市西区みなとみらい 2-2-1 横浜ランドマークタワー 20 階
Tel: 045-277-3764 Fax:045-277-3801
E-mail: info@mizuno-ch.com(担当:横幕、杉山)
※無料面談をご希望の方は合わせてお申し込みください。

■ 第 25 回 中国ビジネス講習会

第 25 回中国ビジネス講習会について、ご案内致します。
第 25 回の講演では、第 1 部を「きわめて実務的な側面から解説する組織再編(その1)」、
第 2 部を「最新のビジネストピックス」として、解説を行います。

**第 1 部 きわめて実務的な側面から解説する組織再編(その1)
**組織再編の意思決定をする際に、知っておくべき基本事項と落とし穴
1 合併
1. 合併とは、そもそもどの様な意義を持つか
2. 遠隔地の合併、市内・区内の合併
3. 合併が望ましい場合、営業譲渡が望ましい場合
4. 業務の一時停止を避けるための注意事項
5. 合併と雇用契約(経済補償金)の関係
6. 加工貿易企業の合併が難しい理 由
7. 合併後の組織運営に付いて
2 持分譲渡(買収と出資売却によるエグ ジット)
1. 持分譲渡方式の買収、エグジットのメリットと注意点
2. 外国企業に対する持分譲渡の手続、決済、リスク保全策
3. 中国内企業に対する持分譲渡の手続、決済、リスク保全策
4. 持分譲渡と雇用契約の関係
5. 持分譲渡に対する課税所得の算定と納税方法
3 増減資
1. 増資手続きと投注差の関係
2. 各種現物出資・デットエクイティスワップの可否
3. 減資が認められる実務面での条件
4. 減資の手続
5. 有償減資と無償減資の対応可否

**第 2 部 最新のビジネストピックス
** 1. 外貨管理の動向(オフショア取引、遠隔地取引の規制強化と注意点)
2. 投資性公司・貨運代理会社などの資本金制度変更に関する政府機関の対応
3. 越境 E コマースの近況(管理制度の変化と実務対応)
4. 加工貿易保証金制度の変更

講師:
Mizuno Consultancy Holdings Limited 取締役社長 水野 真澄

参加費用:
弊社会員企業様※ 無料
非会員企業様 100 元(1,500 円)/人

講演後のご質問について、会員の方は月会費に含まれる回数無制限の Q&A、もしくは、毎月 1 時間の無料面談にてご利用ください。
非会員様については、講演会にご参加いただいた方に限定して、後日、30 分無料面談 (弊社日本、上海、広州オフィスにて実施) のご案内をいたしますので、この機会にご相談ください。

開催日及び会場:

日本
日時:4 月 6 日(水)12:30 ~ 14:30 (受付開始 12:00)
会場:日本丸訓練センター
住所:横浜市西区みなとみらい 2-1-1
http://nippon-maru.or.jp/facilities/pdf/map2014_l.pdf
定員:40 名

広州
日時:4 月 14 日(木)14:30 ~ 16:30 (受付開始 14:00)
会場:広州市長大厦 14 階会議室
住所:広州市天河区天河北路 189 号
地下鉄 3 号線 林和西駅 A/D 出口 徒歩 3 分
http://www.chinamayorsplaza.com/index.html
定員:30 名

上海
日時:4 月 22 日(金)14:30 ~ 16:30 (受付開始 14:00)
会場:TKP 上海人民広場カンファレンスセンター
住所:上海市黄浦区黄河路 333 号 2 楼
http://tkpshanghai.net/jinminhiroba/access.shtml
定員:60 名

各会場、定員に達した段階で締め切らせていただきます。

お申込み:
Email にて下記事項を、 study@mizuno-ch.com まで、お申し込みください。
ご参加いただく方のお名前、E-MAIL はご参加者全員分をご記入ください。

【希望会場・日時】
【会社名】
【ご契約会社名】弊社会員企業様のグループ会社(親子、兄弟会社)様の場合は、弊社とご契約されている企業様名のご記入をお願いいたします。
【氏 名】
【電 話】
【E-mail】

※会員企業様とは、Mizuno Consultancy Holdings Ltd、水野商務諮詢(上海)有限公司 、水野商務諮詢(広州)有限公司と直接コンサルティング契約をいただいている企業様、また、水野財務諮詢(上海)有限公司、水野企業管理(深セン)有限公 司へ記帳代行・申告代理を委託いただいている企業様といたします。
また、上記会員企業様のグループ会社(親子、兄弟会社)様は会員扱いとさせていただきます。
上記以外の企業様(チェイス・チャイナの有料購読者様など)は、非会員扱いとなりますので、何卒、ご理解いただけますようお願いいたします。

中国ビジネス講習会に関するお問い合わせは以下までお願いします。

担当:横幕(日本)、陳・田口(広州)、新沼(上海)
E-Mail: study@mizuno-ch.com


                                [**【書籍】**]()

■ 好評発売中 中国担当者マニュアルステップワンシリーズ

中国ビジネス初心者の方に、法律と実務のポイントをわかりやすく、明快に解説するのが『ステップワン』シリーズです。

第 1 作 詳細ページ http://chasechina.jp/item/4621
最短距離で中国ビジネスを俯瞰するための、担当者様向け初級マニュアルです。
中国進出・組織再編・撤退、貿易・ビジネスモデル、外貨管理・クロスボーダー人民元、国際税務に関する事項を網羅しています。

【商品情報】
B5 版/160 ページ
著者:水野真澄
定価:2,400 円+税 MCH 会員様価格:2,000 円+税
※香港売価格:一般 300 香港ドル MCH 会員様価格:200 香港ドル
※中国で購入を希望されるお客様は下記へお問い合わせください。

第 2 作 詳細ページ http://chasechina.jp/item/4835
中国の会計・税務にスポットをあて、会計編では、中国会計制度の特徴と実務上考慮すべき点について、企業会計制度と新会計準則の相違点や企業所得税法との関係を踏まえて解説しています。
税務編では、中国の主要な税金である、企業所得税・個人所得税・増値税・営業税・消費税・付加税の各ポイントを解説しています。

【商品情報】
B5 版/128 ページ
著者:水野真澄
初版発行日:2015/9 月
定価:2,400 円+税 MCH 会員様価格:2,000 円+税
※香港売価格:一般 280 香港ドル MCH 会員様価格:200 香港ドル
※中国で購入を希望されるお客様は下記へお問い合わせください。

【お申込み・お問い合わせ】info@mizuno-ch.com (担当:横幕)

■ 好評発売中 『中国・増値税の制度と実務』

現在進行形で改革が進む中国の増値税制度。
従来の『財貨の増値税』に加え、営改増試行措置の一環として営業税から増値税課税に切り替えられた『役務の増値税』について、その基礎と応用を実務の視点でわかりやすく解説します。

なぜ小規模納税人からの調達が敬遠されるのか・・
非居住者が中国企業に増値税課税役務を提供した場合の税コストはいくらになるのか・・
返品や値引きが発生した場合の発票修正方法は・・
輸出における免税とゼロ税率の違いは・・
国際輸送を行う貨運代理会社の増値税免税適用手続きは・・
流通税改革が進められる背景には何があるのか・・・etc.

増値税制度に関するより深い理解と情報のアップデートに本書籍をご活用ください。
なお、本作の附属資料として・重要法令の日中対訳・中国税務の実務書類各種フォーマット(日中対訳)・増値税システム画面参考画像集を収録しております。

【商品情報】
詳細ページ http://chasechina.jp/item/4624
A5 版/256 ページ
著者:水野真澄
制作:株式会社チェイス・チャイナ
定価:3,800 円+税 MCH 会員様価格:3,500 円+税
※香港売価格:一般 435 香港ドル MCH 会員様価格:350 香港ドル
※中国で購入を希望されるお客様は下記へお問い合わせください。

【お申込み・お問い合わせ】info@mizuno-ch.com (担当:横幕)


【内部統制コラムと関連サービスのご案内】**

フローチャートを作成し、内部統制の仕組みをチェックして不正の防止・牽制に役立てる
**
資産の不正流用を考える(財務部門による現預金の着服)

現預金に関わる不正は、資産の不正流用のカテゴリーの中でも代表的なものとなります。
小口現金の盗難、レジ金の盗難、現金等価物の盗難や手形や小切手が不正に振り出されるなど様々な役職担当者の加担が考えられますが、今回は経理責任者、子会社社長等の役職レベルで行われる金銭着服や横領について触れます。

この手の不正の手口は一般的に単純なケースが多いものの長期間発見されないケースが特徴で、その為被害金額が大きくなってしまう事が注意すべき点です。

**<事例:財務部長による不正資金横領>
** 【ある海外子会社で会社勤続 20 年の信頼厚い財務部長は、金庫番として重要な入出金の取引の処理について一切を任されていた。
一方でその財務部長は、個人で行っていたサイドビジネスの事業で失敗した借金の穴埋めに、会社における自らのポジションを利用し、会社の銀行口座から預金を引き出していた。

最初は一時的に借りて直に返済するつもりでいたものの、事業は上手くいかず不正横領金額は増えていった。
この不正隠蔽の為、銀行残高証明書の金額を偽造して不正事実を隠す事が行われていた。
本社には決算時に、会計帳簿の銀行残高に銀行残高証明書を添付し報告されていたが、銀行残高証明書は原本をコピーし改竄すべき数字を丁寧に貼り付けそれを再度コピーすることで巧妙に偽造され、原本はシュレッダーで破棄していた。

資金横領は数年間に渡り行われていたが、不正事実を見抜く事は出来なかった。又、外部監査人はローカルの会計事務所で財務部長の友人が行っていた為、銀行残高証明書を銀行から直接送付してもらう正規の監査手続きも踏まず、監査報告書にサインをしていた。
不正の発覚は、資金一元管理化の方針で子会社の銀行口座を集約していく際に明るみとなったことによる。】

この不正が起こった背景には、事業が失敗したという「動機」と、会社に見つからずに資金横領をする事のできる「機会」があったという事、そして使い込むのではなく一時的に借りるだけという「正当化」という言い訳が存在しています。

これら3つの心理的要素は「不正のトライアングル」と名称され、これらの心理的要素が揃った時に「悪い事は承知のうえで」不正行為は行われる事になると分析されています。
不正リスク対策を考えていく際には必要な概念になります。

この三つの要素の内、「動機」と「正当化」については不正実行者自身の内面に起因するものであり、会社が直接かかわっていく事は難しい領域ですが、会社が「従業員の不正を起こす機会」を減らす仕組み作りに取り組む事は不正防止の大きな役割を果たします。
この仕組み作りが内部統制の構築であり、業務の中でどこにリスク(機会)が存在し、そのリスクをどのようにコントロールしていくかを確認していく作業においてポイントとなる点が、 業務フローチャートの作成です。

業務フローチャートには各オペレーション毎に(例えば、売上プロセス、購買プロセスなど)各担当者の業務、書類の流れ、システムを使ったデータの流れを描きます。
その際に職務権限規程に沿った承認が行われているか、照合作業の手順に漏れはないかなどをフローを使って「見える化」していきます。
そしてリスクの大きいオペレーションとそれをコントロールする現状の仕組みを評価し、不十分であれば補っていく事になります。

上述の例で行くと、業務フローチャートを作成していく過程で「送金手配を準備する担当者」「支払を承認する承認者」「会計伝票に記帳する担当者」のポジ ションを同一人物が兼務するかたちとなっており、内部統制としては職務分離がまったく行われていない状況であるという事が再認識されます。

このようなケースは職務分掌規程や職務権限規程が整備された本社では考えられない事ですが、財務部門が少人数のような海外子会社では、信頼の厚い財務部長が例外的な送金手配のプロセスを一人で済ませてしまう状況はありうる事です。

このような場合、 業務フロー作成により、まずそのように内部統制が脆弱である状況である事を認識する事が第一歩で、仕組みを変えて行くことは困難であっても、その補助的手段として以下のようなチェック項目を実施していく事が次の取組みとなります。

・決算期末には銀行から監査部門が残高証明書を直接入手する
・決算日前後に不自然な入出金がないかを確認する(決算日前に着服した金額の穴埋めをする為に他から短期融資を受け会社口座へ入金、決算日には会計帳簿と銀行残高を一致させ、決算日後に借りた金額を戻すというような不正隠匿をチェック)
・すべての期中の現金仕分データを対象にして、相手勘定が引当金の取り崩しなど不自然なものがないかを確認(バランスシート上で不正の隠れ蓑になる引当金、借受金、仮払金、雑収入、雑支出などの科目が相手科目である場合は内容を更に追及する必要有り)

これらの取組みは不正を牽制し、 不正の「機会」を未然に摘む事につながります。恐らく今回のような不正行為も防げたのではないかと思います。
このように「信頼の厚いブラックボックス化した業務」に対し、業務フロー作成のアプローチから自然な形で牽制機能を付けていく事は、最も効果的な不正予防の1つであると言えます。

以上

執筆者 FREMONT BUSINESS SOLUTION HK LTD.代表 川島肇

**【サービスのご案内】

** MCH グループは内部統制を専門に扱う FREMONT BUSINESS SOLUTION HK LTD.と共同し、企業の内部統制の脆弱性をチェックするための業務フロー作成サービスを提供しております。
内部統制の視点で業務手続を個々に確認しながら、フローチャートを作成する事により、 属人化/ブラックボックスとなっている業務、業務効率の妨げとなるボトルネックなどの問題点を顕在化させます。

フローチャート作成費用:10,000 元~
※業務フローチャート、リスク分析シート、内部統制の状況概要サマリの作成を含む

本サービスに関するお問い合わせはこちら
info@mizuno-ch.com


**【水野コンサルタンシー中国ビジネス情報】ダイジェスト版発行者
**MizunoConsultancyHoldingsLtd.
WEB サイト https://www.mizuno-ch.com

このメールマガジンは弊社関係者と名刺を交換させていただいた方、その他ご縁のあった皆様に発信させていただいております。
今後、このメールマガジンの配信が不要な場合は、誠にお手数ですが、下記メールアドレスへ配信停止と記載して送信をお願いいたします。

お問い合わせ、配信停止は mag@mizuno-ch.com までお願いします。