個人所得税の6年ルールの対応【水野コンサルタンシー中国ビジネス情報】ダイジェスト版Vol.225

2024-06-03

【中国ビジネス・トレンド】個人所得税の6年ルールの対応

2019年1月1日に、現在の個人所得税法が施行されていますので、今年(2024年)は6年目となります。今回は、外国人の6年ルールと対応の注意点について解説します。

1.6年ルールとはなにか?

所謂、6年ルールとは、個人所得税法に規定するルールであり、外国人に対する課税が、「中国内源泉所得から、全世界所得課税に」変更されるポイントを指します。

(1)外国人は、連続居住年数6年未満の場合、中国源泉所得のみが課税対象
「個人所得税法」・第1条には、以下の様に規定されています(本来は、回りくどい表現がされていますが、意訳しています)。
● 中国公民、及び、1納税年度に満183日居住する外国人は、全世界所得に対して個人所得税を課税する。
● 納税年度内の中国居住日数が183日未満の外国人は、中国源泉所得に対して課税する。

但し、個人所得税法実施条例第4条に(筆者が意訳しています)、「外国人の場合、中国居住が183日以上の年度が連続6年未満の場合、中国外を源泉とし、且つ、国外の組織が支払う所得については、個人所得税を免除する」と規定しています。
⇒ 年間183日以上の居住が、6年連続で継続しない限り、外国人の場合は、国内源泉所得のみ課税される。

(2)6年ルールは何時から起算か?
6年ルールは、旧個人所得税法の5年ルールの規制緩和です。
規制緩和に際して、旧税法時代の滞在日数は全てリセットし、2019年1月1日からの起算を認めました。
⇒ 「中国に住所がない個人の居住時間判定基準の公告(財政部・税務総局公告2019年第34号)」

その為、起算は2019年1月1日からとなり、その後、連続居住している外国人は、今年(2024年)で満6年ですので、2025年から全世界所得課税に切り替わります。

2.6年ルールはリセットできるのか?

(1)リセット方法
個人所得税法実施条例第4条に、外国人の場合「居住年度の何れかに、30日超中国を離れた場合、連続年数は改めて計算する」と規定されています(筆者が意訳しています)。
⇒ この表現では判別できませんが、累計30日ではなく、連続30日超の出国を意味します。

居住とは、納税年度において、満183日以上中国滞在することを指しますが(183日未満であれば非居住者)、居住開始後の滞在期間中に、30日超の連続出国をすれば、6年間のカウントはリセットされます。
よって、リセット方法は、以下の2種類の何れかです。
● 満6年になる前に、年度内に、連続30日超の出国をする(不在期間を作る)。
● 満6年になる前に、年度内の中国滞在期間が183日未満になるように出国する。

因みに、筆者の例ですが、2022年12月12日~2023年2月14日の期間、日本滞在しています。つまり、2023年に30日超の連続出国をしているため、2024年から再カウント(今年が1年目)という事になります(上海市長寧区税務局に確認済)。

(2)満6年になってしまった場合は、もう手遅れなのか?
満6年に達し、全世界所得課税が開始された以降、リセットが可能かという件につき、国家税務総局は、税法改定(2019年)時の記者発表で、以下の様に語っています。
● 2019年~2024年に期間、毎年満183日以上居住しており、連続30日超の出国がなければ、2025年から国外源泉所得に対しても、納税対象となる。但し、2026年に、連続30日超の出国をすれば、過去の滞在はリセットされ、2026年は、国外源泉所得に対する課税は免除される。

つまり、一旦、全世界所得課税が開始されても、その後、連続30日以上の出国をすれば、リセット可能です。
尚、財政部・税務総局公告2019年第34号により、入出国日は中国滞在日数とは扱いません。

以上より、以下の事が言えます。
1)連続30日の出国は、2025年でも間に合う。
上記の国家税務総局の発表を元にすると、2024年で満6年となっても、2025年に30日以上の連続出国をすれば、2025年は国外源泉所得非課税の扱いを受けることができることになりますので、来年でも手遅れではないという事ができます。

2)全世界所得課税に転換されても、再度のやり直しは可能。
連続6年滞在となり、全世界所得課税に転換されても、ある年度に、連続30日超の出国をするか、年度内の中国滞在期間が183日未満になるような出国をすれば、再び、国内源泉所得課税から開始できます。

旧税法では(当時は5年ルール)、満1年居住が連続5年となると、全世界所得課税が確定し、その後、かなりまとまった出国をしないとリセットできませんでした。これが、税法改正に伴い、30日超の出国(若しくは、累計183日以上の出国)をすれば、随時、リセットできる形に規制緩和されています。

3.誤解してはいけない、国外源泉所得の内容

(1)中国駐在員であれば(中国外での兼務がなければ)、給与は全て中国源泉
個人所得税法実施条例・第三条・(一)に、「職務担任、被雇用、契約履行などで中国国内において役務を提供して取得する所得は、その支払地が中国国内にあるかに関わらず、中国国内を源泉として取得する所得とする」と規定されています。
よって、中国駐在員の給与は、仮に、日本の親会社が一部・全部を負担していたとしても、中国源泉所得となり、6年ルールには関係ありません。

これは、国際課税は、「何処で払われたか」ではなく、「何を対価として支払われたか」を元に所得源泉を判定するためであり、中国だけではなく、日本でも多くの欧米諸国でも同様の考え方が採用されています。

尚、国外兼務が有った場合は、滞在日数・報酬の負担割合などに基づき、所得源泉を配分します。これは、財政部・税務総局公告2019年第35号を基準とします。

(2)6年ルールが関係する国外源泉所得とは何か?
国外源泉所得の例は、日本の不動産関連所得、日本での金利・投資所得などが代表例として挙げられます。

尚、中国駐在中に退職し、退職金を受領する場合は、全額中国で課税されるか、中国勤務に相当する期間のみ課税するかが分かれますので、6年ルールの重要性が高くなります。

水野コンサルタンシーグループ代表 水野真澄

セミナー「 増値税と個人所得税の制度と実務(2024年最新版)」全3回のプログラム、参加特典詳細とお申込みはこちら
https://chasechina.jp/seminar/435