国際間の相殺決済規制緩和の動き【水野コンサルタンシー中国ビジネス情報】ダイジェスト版Vol.220

2024-04-09

【中国ビジネストレンド】国際間の相殺決済規制緩和の動き

1.国際間の相殺決済は認められているか

一定の基準を満たした多国籍企業が、外貨管理局・人民銀行で備案をし、受理されれば、包括的なネッティングが認められます。
●  多国籍企業の外貨資金集中運用に係る管理規定(匯発[2019]7 号)
●  多国籍企業グループのクロスボーダー双方向人民元プーリング業務展開の更なる利便化に関する通知(銀発[2015]279 号)
ただ、企業に対する申請資格のハードルが高いことと、相殺決済の管理には、相当の手間がかかる点には注意が必要です。
それ以外の企業の場合、現時点では、相殺を容認する規則は有りませんが、最近、地域を限定した規制緩和の動きが出てきています。

2.一部の相殺は以前より認められていた

貨物代金決済に関しては、2012 年 7 月末まで、外貨核銷制度と呼ばれる消込照合制度が採用されていました。これは、通関と決済の妥当性を銀行が事前確認した上で、決済を認める制度です。その前提の上に、「進料加工」と「貨物代金とクレームの相殺」に関しては、相殺後の金額で照合する、「差額核銷」という制度が有りました。
これが、2012 年 8 月 1 日の核銷制度の廃止に伴い、差額核銷の根拠法(匯発[2005]73 号・匯発[2004]116 号)が廃止されました。
ただ、進料加工の相殺に関しては、実務運用上、差額核銷制度時代の運用が継続されています。

3.非貿易項目に付いては運用で対応しているケースが有る

貨物代金決済は通関実績という痕跡が残るため、根拠法が無ければ相殺決済はできません。一方、非貿易項目の場合は、元となる取引が当事者にしか分かりません。
例えば、相互に役務提供を行っている場合、相殺した結果の契約書を締結し、決済しても、第三者には相殺したか否かは判断できません。
その為、業務委託料などの場合は、実務運用上、相殺を行っている事例は存在します。
ただ、この様なやり方ではなく、総額で締結された契約書(受領と支払い)を銀行に提示した上で、相殺決済をする申請する場合、これを認めるか否かは銀行判断となります。相殺結果が中国からの支払いであり、金額が US$5 万を超過すると、所管税務機関での備案が必要で、実質的な審査が行われるため(国家税務総局・外貨管理局 2013 年第 40 号)、認められる可能性はかなり低くなります。

尚、銀行審査のみの場合でも、異種通関間の相殺は、外貨管理条例に基づき不可ですので、却下されます。
因みに、国際貨運代理等の様に、取引と受け払いの対応関係が、比較的明確な非貿易項目の決済に関しては、課税管理上の理由から、所管税務機関が、相殺しないよう企業を指導した実例があります。

4.地域限定の規制緩和措置とは

上述した、地域を限定した規制緩和の動きとは、「越境貿易投資の高水準な開放試行措置を拡大する通知(匯発[2023]30 号)」によるものです。
この通知は、適用地域を、上海市、江蘇省、広東省(深セン市を含む)、北京市、浙江省(寧波を含む)、海南島全域に限定しています。相殺行為に関しては、施行地域内の優良企業が、境外の同一企業との間で相殺決済を行う事を認めています。
30 号通知には、それ以上の詳細記載は有りませんが、これを元に公布された上海市の地方通達(上海匯発[2024]3 号)では、差額相殺項目として、以下を規定しています。
(1)国内外関連会社間の貿易代金の相殺
(2)貨物代金とデスパッチマネー、デマレージとの相殺
(3)販売代金とリベートなどの相殺
(4)輸送費の差額決済
(5)その他

但し、上海地域の銀行にヒアリングした結果では、現時点では、試行措置の適用対象となる「優良企業」の審査は厳しく、認定企業はかなり少ない状況とのことです。

水野コンサルタンシーグループ代表

水野真澄