中国における会計上の収益認識基準と増値税納税義務との関係

2021-08-26

中国における会計上の収益認識基準と増値税納税義務との関係

1.会計上の収益認識

①  収益認識の原則と実務

企業会計制度と、新会計準則に基づく収益認識基準は以下の通りとなります。

●  企業会計制度を採用している企業は、以下の条件を充足した時に収入を計上します。

  • 企業が既に、商品の所有権に関する主要なリスクと報酬を買手に移転している。
  • 企業が所有権と関連する通常の継続的管理権を既に留保しておらず、販売した商品に対して、既に有効な支配を行なっていない。
  • 収入の金額が、信頼し得る程度に測定できる。
  • 関係する経済的利益が、十分に企業に流入し得る。
  • 既に発生した、若しくは、将来発生する原価が、信頼し得る程度に測定できる。

●  新会計準則を採用している企業は、以下の条件を充足した時に収入を計上します。

  • 契約当事者が契約を承認し、かつそれぞれの義務を履行することを誓約した。
  • 当該契約に、譲渡された商品又は提供された役務に関する契約当事者の権利、及び義務が明確に定められている。
  • 当該契約書に、譲渡される商品に関連する支払い条件が、明確に定められている。
  • 契約に商業的実体がある。すなわち、当該契約を履行することにより、企業における将来の Cash Flow、時間の分布または金額に変化が生じる。
  • 顧客への商品の譲渡により、企業が取得する権利ある対価が回収される可能性が高い。

②  新収益認識基準

IFRS 第 15 号に基づく「企業会計準則第 14 号-収入(財会[2017]22 号)」が 2017 年に公布され、非上場企業に対しても、(会計準則を適用している場合は)2021 年 1 月 1 日から適用が義務付けられています。

この基準では、以下の5つのステップを踏み、認識すべき収益の金額とタイミングを判定することが要請されます。

●  契約の識別(ステップ1)⇒ 契約の履行義務の識別(ステップ2)⇒ 取引価格の算定(ステップ3)⇒ 取引価格を履行義務に配分(ステップ4)⇒ 履行義務の充足に伴い収益を認識(ステップ5)

この基準に基づけば、表面上の取引価格と認識すべき収益金額が異なる場合も出てきます。例えば、契約に値引き、割引、罰則適用などの条項がある場合、合理的な予測に基づいて、それを見積もり計上する(見合いの負債を計上して、収益額を減額する)。契約価格が金利要素を含む場合、取引金額と金利に分割する。委託販売のような場合、リスク・機能を負わない販売人(受託販売者)は、仕入・売上を総額計上せず、手数料部分だけ収益として認識するなどの処理が必要となります。それ以前の収益認識基準においては、増値税の納税義務との違いは、主に収益認識のタイミングでしたが、新基準では、それに加えて、取引金額自体が異なってきます。よって、中国の実務(増値税と会計処理の一致が要求される)を考慮すると、現地帳簿段階で、会計規則に合わせた計上をするのは困難です。

2.売上計上と増値税の関係

①  発票主義とは

中国の会計実務上、増値税発票の受渡しに基づいて売上・仕入を計上する処理が、広く行われています。この様な会計処理は、発票主義等と俗称されており、中国会計実務の変則性の代表的な例と言えます。

発票主義に基づいて経理処理をすると、「既に購入して倉庫内にある商品が在庫として計上されていない(売上も同様)」、「分割払い条件で商品販売を行った場合、既に引き渡された商品が、代金回収期限の割合に応じて減少していく」などの特殊な状況となります。この様な処理が行われる理由は、上述の通り、所管税務局が、財務諸表と増値税計算書(月次の増値税申告表)の一致を求めるためです。

国家税務総局は、「企業所得税收入を認識する若干の問題についての通知国家税務総局(国税函[2008]875 号)」を公布し、販売収益・営業収益の計上・認識は、発生基準で行うことを求めています。ただ、発票主義にならざるを得ない根本的な理由は、各地の税務局の対応であるため、根本的な解決が難しくなっています。

②  会計と税務(増値税)の違い

増値税暫定条例では、物品売買の納税義務発生時期を、以下の通り規定しています。

●  物品または課税労務の販売は、販売代金の受領、または販売代金請求書を取得した当日。先に発票を発行する場合、発票発行の当日。

つまり、増値税の納税義務は、商品の引き渡し時点ではなく、代金支払時点で発生します(但し、発票を先に発行した場合は、発行時点で納税義務が発生)。

あるべき論では、経理処理と税務処理は、必ずしも一致しなくてもよく、各々の基準に従い処理すればよいと言えますが、実際には、毎月提出する増値税申告表において、税務機関が、売上・仕入、売掛金・買掛金の計上と、増値税納税額の一致を要求するため、結果として、増値税の納税義務(発票の受渡)に合わせて会計処理をすることになってしまいます。

この問題を解消する方法として、実務上は、以下の方法が考えられます。

前提:売上金額 1,000  増値税 130

引渡し時期 10 月 支払時期 12 月

●  引き渡し時(10 月)の処理

売掛金  1,130  | 売上  1,000

未払税金(未開票収入)130

●  回収期限(12 月)の処理

売掛金  ▲ 1,130  | 売上  ▲   1,000

未払税金(未開票収入)▲130

売掛金  1,130  | 売上  1,000

未払税金(開票収入)130

つまり、増値税申告書の「未開票収入」項目の利用であり、引き渡し時(10 月)には、発票を発行しない状態で売上・売掛金・未払税金を計上し、未開票収入と記載。

その後、本来の回収期限(12 月)に、10 月の逆仕訳を入れてキャンセルし(増値税申告表にもマイナス記載)、正規の計上を改めて行うというものです。

この方法により、少なくとも、発票起票時期と会計上の収益認識のタイミングのずれは修正できます。

ただ、税務機関にヒアリングした結果では、未開票収入項目の使用は例外的なものであり、どの税務機関も、稀の使用(年 1 ~ 2 回程度)に限定して認めるとの意見でした。更に、理由説明書の提示を義務付ける税務機関も有ります。

以上より、この方法を、常時使用する事はできず、本質的な解決策にはなりません。

3.対応策

以上の取り、通常の発生基準に基づく収益認識(タイミングのズレ)も、上記2-② の通り対応困難。更に、新収益認識基準に基づく経理処理を、現地帳簿に反映させるのは極めて困難と言えます。

以上より、現地帳簿は発票基準とし、会計監査報告書、親会社に対する連結決算の報告書などで修正を加える対応にせざるを得ない状況にあります。


水野真澄(水野コンサルタンシーグループ代表)