租税条約適用手続の規制緩和措置 執筆日:2020年1月15日

2020-05-30

租税条約適用手続の規制緩和措置 ****

2019 年 10 月 14 日に、「非居住納税者の協定待遇の享受管理弁法(国家税務総局公告 2019 年第 35 号)」が公布され、2020 年 1 月 1 日より施行されています。

これにより、租税条約適用手続簡便化が期待できますので、その内容について解説します。

1.租税条約適用手続の経緯

2009 年 10 月 1 日に、国税発[2009]124 号が施行され、租税条約の恩恵を享受するためには、所得に応じて、以下の手続を取る事が義務付けられました。

1)投資所得・譲渡所得を有する非居住者(第 7 条・第 9 条)

中国を源泉とする配当・利子・使用料・譲渡所得を有する非居住者は、以下の書類に基づいて、所管税務機関で事前許可を取得。

2)事業所得・賃金給与・各種報酬(第 11 条)

中国を源泉とする事業所得、賃金給与、その他の報酬を有する非居住者は、所管税務機関で備案(届出)を行う。

以上の通り、投資所得に関しては、税務機関の事前許可が必要であり、関連書類(居住国の税務機関が発行した身分証明、契約書、非居住者の実態を証明する書類(登記簿、会計監査報告書、その他)を提示して、審査を仰ぐ必要が有ります。許可取得には、一般的に、3 ヶ月程度の時間を要していました。

一方、事業所得・賃金給与・各種報酬については、弁法には、備案が必要と規定されていますが、実際にはこの管理は行われておらず、183 日ルールなどは、備案無しで適用が認められますし、備案申請しても受理されません。

その後、「非居住納税人の租税条約待遇享受管理弁法(国家税務総局公告 2015 年第 60 号)」 が、2015 年 11 月 1 日より施行され(同時に、国税発[2009]124 号は廃止)、全ての所得が備案制に変更となりました。これは、投資所得などに関しては手続の緩和を意味しますが、実際の実務手続は、従来とあまり変化は有りませんでした。

それが、今回の制度変更(国家税務総局公告 2019 年第 35 号)により、再度変更となります。

2.今回の制度変更

① 制度変更の概要

今回の変更により、租税条約適用の判断は、納税者・源泉徴収義務者の自主判断となります。納税義務者・源泉徴収義務者が、租税条約適用条件に合致していると判断する場合、

申告の際に「非居住納税者の協定待遇享受情報報告表」を送付し、以下の書類を自社保管します。これらの書類は、後日、税務機関からの求めがある場合、提示の上、税務機関の検査を受ける必要があります。

1)非居住者の居住国の税務機関が発行した納税居住者身分証明書

2)取得した所得に関する契約書、董事会・株主会決議、支払証憑等の証明資料

3)配当、利息、特許権使用料条項の協定待遇を享受する場合、「受益所有者」の身分の関連証明資料(実態証明)。

4)その他の資料

② 実務上の影響

中国の国内法(企業所得税法)に定める、配当・利子・使用料に関する源泉徴収税率は 10%で、日中租税条約の制限税率と同様です。よって、日本への配当等に際して、租税条約適用を検討する事はありませんが、香港に対する支払いの場合は、軽減税率の適用が受けられます。配当送金を例にとると、25%以上の出資を有する香港企業に対する配当は、5%の軽減税率の適用が認められます。この恩恵享受を前提とすると、確定申告後(翌年 5 月末)に、董事会決議で配当額を決定。次に、租税条約適用許可を申請し、税務機関の承認後、納税手続を経て送金となりますので、配当可能な時期が、翌年の 9 月頃となっていました(但し、取得した許可証は、3 年間使用可能)。

今後は、納税時(配当金の源泉徴収納税はオンライン申告)に、租税条約条件の適用を選択すれば、軽減税率を適用して納税できます(税務機関の租税条約適用許可審査の時間が短縮できる)。

勿論、税務機関の後続審査に備える必要は有りますが、従来に比べると、迅速な配当が可能になります。