【Mizuno-CH中国・ベトナムビジネス情報】ダイジェスト版Vol.80

2022-12-21

【中越ビジネスマニュアル 第 80 回】

中国・ベトナムにおける貿易取引に関するクレーム処理について

貿易取引において、クレームが発生した場合、そのクレーム金をどのように処理するかについて中国とベトナムの状況を解説します。
クレームが発生した場合、想定される方法として、「貨物代金と相殺する方法」と「クレーム金を単独で決済する方法」の2種類が考えられます。

■ 1.中国

(1)貨物代金との相殺

貨物代金決済の根拠規則は匯発[2012]38 号となりますが、貨物代金とクレーム金の相殺に関しては、銀行審査のみで対応できます。
過去には、この相殺は差額核銷という制度で管理されており、1取引当たりの通関と決済の差額が 5,000 米ドルを超過した場合、外貨管理局の許可が必要でした。これが、匯発[2012]38 号施行に伴い核銷制度(貨物代金決済時の通関実績・取引証憑との照合制度)が廃止され、銀行審査のみとなったものです。
ただ企業の通関実績と決済額は、総量データとして照合管理されているため、相殺により両者の差が著しくなると、外貨管理局の立ち入り検査を受ける可能性があり注意が必要です。
なお、中国からの輸出取引に関しては、増値税の輸出還付に影響を与えるため、事前に、クレームの詳細と証憑を提示した上で、所管税務機関の確認を受ける必要があります(国家税務総局公告 2013 年第 30 号)。

(2)クレーム金の単独支払い

中国から国外へのクレーム金の支払いは、2013 年9月1日に現実的な選択肢となりました(国家税務総局・国家外貨管理局公告 2013 年第 40 号)。
それ以前の制度では、中国企業がクレーム金を単独で支払う場合は、裁判・仲裁の判決書などが要求されていたため(銀発[1996]210 号、匯発[2002]29 号。双方廃止)、訴訟を起こさない限りはクレーム金の支払いができなかったためです。
これが制度変更により判決書の提示は不要になり、また国外で発生した賠償金については、5万米ドルを超過しても税務機関での登記手続きは不要、つまり銀行審査のみで支払いができることとなっています。

■ 2.ベトナム

(1)貨物代金との相殺

貨物代金とクレーム金の相殺は可能ですが、債権・債務の存在、相殺を証明する責任は企業に求められますので、債権・債務の発生を証する書類である契約書、通関書類、相殺に関する契約書等を具備するとともに、都度の相殺に際しても、相殺内容、相殺額を明示した合意書の作成が必要となるため留意が必要です。特にクレーム金に関しては、客観性、合理性の観点から、クレームに至った経緯、処理方法、合意内容を文書化するとともに、対象となる物品写真の保全にも注意が必要です。

(2)クレーム金の単独支払い

ベトナムから国外へのクレーム金の支払いは、合意書等の証憑を銀行に提示することにより可能ですが、賠償金の受領は、外国契約者税の課税対象となるため、その支払いに際しては、法人税2%を源泉徴収する必要があるため注意が必要です(財務省通達・第 103/2014/TT-BTC 号・第 13 条)。なお、クレーム金に対する付加価値税は免税対象となります(財務省通達・第 219/2013/TT-BTC 号・第5条)。

中国・ベトナムにおける外資企業に対する資本金払い込みについて

外資企業に対する資本金払い込み方法について解説します。

■ 1.中国

外資企業の資本金払い込みは、貨幣、現物(建築物、工場建物、設備機械、その他の資材)、無形資産(工業所有権、ノウハウ、土地使用権)などの方法が認められています。
ただし、実務上の制限を勘案すると、出資方法は以下の通りとなります。

(1)現金

かつては、海外からの資本金払い込みは外貨のみ可能でしたが、商資函[2011]889 号、商務部公告 2013 年第 87 号により、人民元での支払いが可能となりました。
ただし、ここで言う現金とは、銀行間で国際送金されたもののみを指し、本当の現金を現地で払い込んでも出資とは認められません。

(2)現物出資

外国企業の現物出資は、国外から中国に輸送した(中国で輸入通関実績がある)設備機械および工業所有権・ノウハウなどの無形資産が現物出資の対象となります。
なお、土地使用権・不動産による現物出資は、中国出資者による場合が大半であり、外国企業が中国の土地使用権で現物出資する事例はほとんどありません。これは、2006 年以降、外国企業が中国の不動産を購入することが禁止されていること(常駐代表処のオフィスのみ購入可能)も一因となっています。
なお、以前の会社法では、現物出資は資本金の 70%以内に制限されていましたが、14 年の会社法改定により、この制限は撤廃されています。

(3)デッド・エクイティスワップ

外債(主に海外の親会社からの借入金)を資本金に転換するデッド・エクイティスワップが認められています。
「外債登記管理弁法(匯発[2013]19 号)」では、資本金払込方法の一つとして外貨債務の資本金転換が認められていますので、これに基づきデッド・エクイティスワップができます。
ただし、資本金に転換できるのは外債登記された国外借入金だけであり、買掛金・諸預り金などの債務を資本転換することは認められません。

■ 2.ベトナム

資本金払い込みは、貨幣、ゴールド、ベトナムドンでの評価が可能な土地使用権、知的所有権(権利・技術・ノウハウ)、その他の財産での払い込みが認められています(企業法・第 34 条)。ただし、実務上の制限を勘案すると、外資企業の出資方法は以下の通りとなります。

(1)現金

海外からの資本金払い込みは外貨のみ可能であり、認可された金融機関の外貨口座に振り込む必要があります(外国為替管理法・第 28/2008/PL-UBTVQH11 号)。

(2)現物出資

外国企業の現物出資は、国外からベトナムに輸送した(ベトナムで輸入通関実績がある)設備機械および工業所有権・ノウハウなどの無形資産が現物出資の対象となります。
なお、外国企業が土地使用権・不動産を保有することは通常ないため、土地使用権・不動産に関しては、合弁企業におけるベトナム出資者による出資が前提と考えられます。現物出資を行う場合、各出資者もしくは専門評価機関による評価に基づき、出資資産のベトナムドン価額を定める必要があります(企業法・第 36 条)。

(3)デッド・エクイティスワップ

海外の親会社からの借入金は資本口座に入金していますので、借入金を資本金に転換するデッド・エクイティスワップは可能です。計画投資局にて増資手続きを行い、投資登記証・企業登記証を更新する必要があります。契約期間1年超の中長期借入金の場合、中央銀行に登録していますので、資本転換に関する変更手続きも必要です。

以上