【Mizuno-CH中国・ベトナムビジネス情報】ダイジェスト版Vol.62

2022-03-16

【中越ビジネスマニュアル 第 62 回】

■  外資企業の設立前準備口座

中国・ベトナムに現地法人を設立するに際して、事前費用が発生することがあります。この場合に使用するのが、設立前準備口座ですが、その概要を解説します。

1.中国

中国では、会社設立前に、オフィスを賃借(生産型企業の場合は、工業用不動産の購入・賃借)する必要がありますし、中国内で事前調査費用が発生する場合が あります。

この様な費用に関して、国外からの直接払い込みが認められないケースが多いのですが、この対応方法となるのが、設立前準備口座です。

<1>口座の種類と開設

設立前準備口座開設の根拠となるのは匯発[2012]59 号ですが、ここでは、市場監督局での社名登記(外資企業設立の最初の手続き)後に、「外資企業設 立前準備口座」(前期費用外匯帳戸)が開設できると規定されています。

<2>使用と換金

設立前準備口座内外貨の人民元換金、および、使用は、資本金口座の扱いに準じて、銀行が審査します。口座内の未使用残高は、外資企業設立後、資本金口座に 振り替えができ(使用前の金額で資本金を登録し、使用額は開業前費用として処理できる)、設立が認められない場合は、残額を、国外に返金することができま す。

なお、匯発[2012]59 号には、US$ 30 万の残高制限が規定されていましたが、匯発[2018]17 号で、金額制限は廃止されました。また、口座の 開設期間は6カ月以内とされていますが、合理的な理由があれば、最大 12 カ月まで延長できます。

<3>実務上の問題点

設立前準備口座は、制度としては古くからあるのですが、かつて(匯発[2012]59 号で、開設に際しての外貨管理局許可取得義務が撤廃される前)より、 外貨管理局の許可取得が困難で、実際には開設できないケースが散見されました。制度変更後も、実際には、銀行審査が厳しく、依然として開設に一定の難易度 が伴う状況です。

2.ベトナム

ベトナムも同様に、会社設立前に、オフィスを賃借(生産型企業の場合は、工業用不動産の購入・賃借)する必要がありますし、ベトナム 内での事前調査費用が発生する場合があります。

この様な費用を、国外から出資者が、直接(立替払いとして)払い込んだ場合、会社設立後の精算返金(ベトナム子会社から国外の親会社への対外送金)が認め られないケースが多く、この対応方法となるのが、設立前準備口座です。

<1>口座の種類と開設

設立前準備口座開設の根拠となるのは「ベトナムへの外国直接投資にかかわる為替管理指針」(中央銀行通達・第 19/2014/TT-NHNN 号)ですが、 中国のように「社名登記」が前提とはなっていません。また、ベトナム通貨(VND)での開設は認められておらず、外貨建て口座の開設のみが認められています。

<2>使用と換金

ベトナム国内企業への事前経費支払いには、設立前準備口座からの支払いが求められています。ベトナム国内送金では、一定の事由(外国人の給与支払い等)を 除き、原則として外貨での支払い(振込)は認められていませんので、送金時にTTBレート(対顧客電信買相場)で換金されます。口座内の未使用残高は、外 資企業設立後、資本金口座に振り替えができ(使用前の金額で資本金を登録し、使用額は開業前費用として処理できる)、設立が認められない場合は、残額を、 国外に返金することができます。

<3>実務上の問題点

設立前準備口座開設には、親会社の登記簿(履歴事項全部証明書等)および、印鑑登録証明が必要であり、親会社所在国において、それらの公証・認証、在外ベトナム公館での認証、ベトナム語訳等も必要となりますので、タイムスケジュールには注意が必要です。

また、中央銀行が事前経費の国外送金を認めないケースもあるため、事前に口座開設予定の金融機関にて、国外送金時の必要書類を確認しておくことが肝要です (各金融機関により必要書類は異なります)。

■  個人の外貨管理

今回は個人の外貨管理について中国とベトナムの規定を解説します。

1.中国

個人の外貨管理は、「経常項目外貨業務指引 2020 年版」(匯発[2020]14 号)に、以下の通り規定されています。

<1>入出国に当たっての現金の携帯制限

1)外貨現金(第 89 条)

個人の外貨携帯入境制限は、US$ 5,000 以内であり、それを超過する場合は、税関申告が必要です。ただし、同日内の複数回入国、短期間に多数入国する 場合は、2回目以降は、金額にかかわらず、税関申告が必要です。

個人の出境時の外貨携帯は、直近の入境時の持ち込み申告記録がない場合、US$ 5,000 超~1万以内の場合は、銀行に「携帯外匯出境許可証」の発行を申請する必要があります。

US$1万を超過する場合、取引銀行所在地の外貨管理局に携帯外匯出境許可証の発行を申請する必要があります。

2)人民元現金(人民銀行公告[2004]第 18 号)

人民元の携帯制限は、2万元以内となります。

<2>外貨から人民元への換金(第 54 条)

個人(中国公民・外国人双方)が、身分証の提示のみで、外貨から人民元に換金できる金額は、年間累計US$5万となります。

なお、近親者に対して、この自由換金(人民元転、外貨転)を委託することが認められます。

近親者とは、配偶者、父母、兄弟姉妹、祖父母、外祖父母、孫、外孫を指します(第 61 条)。

<3>人民元から外貨への換金

中国公民が、身分証の提示のみで認められる、人民元から外貨への換金は、年間累計US$5万となります。

外国人個人に対しては、総量枠は認められておらず、中国内で取得した経常性人民元は、身分証明書と取引内容証明(納税証明を含む)に基づき、銀行で外貨換金する必要があります(第 59 条)。

外国人個人が、外貨から人民元に換金した未使用残額の、外貨への再換金は、元となる換金証明(24 カ月有効)に基づき認められます。制限金額は、1日の累計額はUS$ 500 以内、出国手続き後の換金は、US$ 1,000 以内となります(第 60 条)。

<4>外国人個人の経常性外貨対外送金(第 65 条)

1)外貨口座内の外貨は、銀行に、身分証明書を提示することで、対外送金が認められます。

2)外貨現金を銀行に持ち込み対外送金する場合、当日の送金額がUS$1万以内であれば、身分証の提示で対応が認められます。

上記を超過する場合は、加えて、税関印のある「海関申報単」、もしくは、本人の、元の銀行預金の外貨引出証明と、用途説明資料の提示が必要です。

2.ベトナム

個人の外貨管理は、「中央銀行通達・第 15/2011/TT-NHNN 号」、「国会常務委員会令・第 28/2005/PL-UBTVQH11 号」に、以下の通り規定されています。

<1>入出国に当たっての現金の携帯制限(中央銀行通達・第 15/2011/TT-NHNN 号・第2条・第3条)

1)外貨現金

個人の外貨携帯入境制限は、US$ 5,000、もしくは、その他通貨での同価額以内であり、それを超過する場合は、税関申告が必要です。ただし、US$ 5,000 以内であっても、入境後にベトナム国内銀行の外貨支払口座へ預金をする場合には、税関申告が必要です。

個人の外貨携帯出境制限もUS$ 5,000、もしくは、その他通貨での同価額以内であり、それを超過する場合は、税関申告が必要です。また、直近の入境時の持ち込み申告記録がない場合、銀行が発行する「携帯証明書」、もしくは、中央銀行が発行する「携帯許可書」も必要です。ただし、直近の入境時の持ち込み 申告記録がある場合でも、持ち込み申告記録を超過する時は、「携帯証明書」、もしくは、「携帯許可書」が必要となります。

2)ベトナムドン現金

ベトナムドンの携帯制限は、1,500 万ドン以内となります。

<2>外貨からベトナムドンへの換金(国会常務委員会令・第 28/2005/PL-UBTVQH11 号・第 24 条)

個人(ベトナム公民・外国人双方)は、外貨からベトナムドンに換金する権利を有します。

空港内両替所や銀行窓口では、身分証の提示が求められますが、市内の両替所では、特に身分証の提示なく換金可能です。

<3>ベトナムドンから外貨への換金

ベトナム居住者(ベトナム公民・外国人双方)のベトナムドンから外貨への換金は自由に認められます(国会常務委員会令・第 28/2005/PL-UBTVQH11 号・第 10 条)。

ベトナム非居住者に関しては、ベトナム源泉所得の外貨送金への規制は定められていますが(同号・第 25 条)、換金自体は、自由に認められています。

<4>外国人個人の経常性外貨対外送金(国会常務委員会令・第 28/2005/PL-UBTVQH11 号・第8条)

1)外貨口座内の外貨は、銀行に、身分証を提示することで、対外送金が認められます。

2)合法的なベトナムドンでのベトナム源泉所得を有する場合、外貨に換金し対外送金することが認められます。

以上