中国・ベトナムにおける親会社に対する債務の資本転換・法人税の優遇について【水野コンサルタンシー中国・ベトナムビジネス情報】ダイジェスト版Vol.115
2025-12-09【中越ビジネスマニュアル 第 115 回】
中国・ベトナムにおける親会社に対する債務の資本転換について
日本の親会社が中国・ベトナムの子会社に対して持っている債権を出資転換できるか否か(子会社から見ると、債務を資本転換できるか否か)を解説します。
1.中国
(1)資本転換一般
「会社登録資本登記管理弁法(国家工商行政管理総局令2014年第64号・失効)」・第7条は、「中国内の会社に対する合法的な債権であり、法律・会社定款などに抵触していない」もしくは「裁判所の判決、批准に基づく債権であること」のいずれかに該当する債権は出資に転換できることが規定されています。
ただし、登記実務を上海市・広州市の商務主管部門・市場監督局に確認しましたが、双方、外資企業に関して、外国出資者が行うデット・エクイティスワップは外債登記された親会社融資だけが対応可能であり、それ以外の債権・債務(売・買掛金、預け・預かり)は出資転換できないというものでした。
注:第64号弁法は、「市場主体登記管理条例実施細則(国家市場監督管理総局令2022年第52号)」の施行に伴い廃止されましたが、同細則に該当条項がないため、廃止された第64号弁法の内容を引用しています。
(2)外債の資本転換
「外債登記管理弁法(匯発[2013]19号)」では、資本金払込方法の一つとして外貨債務の資本金転換を認めています(元本と金利の転換が可能)。 デット・エクイティスワップの実施に際しては、市場監督局に登記情報の変更を申請(ネガティブリスト外資企業はそれ以前に商務主管部門の許可が必要)。
その後、市場監督局での増資備案(届け出)と、債権者(親会社)が発行した外貨債務の資本金転換確認書を外貨管理局に提示し、外貨債務の解除申請を行います。
外貨管理局の許可は、「直接投資に係る外貨管理政策のさらなる改善及び調整に関する通知(匯発[2012]59号)」により免除されています。
2.ベトナム
(1)資本転換一般
ベトナムの法規定において、債務の資本転換を明示的に禁止する規定はありません。 ただし、企業法・第34条では、資本の払い込みは貨幣、ゴールド、ベトナムドンでの評価が可能な土地使用権、知的所有権(権利・技術・ノウハウ)、その他の財産に限定されています。
また、外資企業の場合、貨幣での資本払い込みは外貨のみ可能であり、認可された金融機関の外貨口座(資本口座)に振り込む必要があります(外国為替管理法・第28/2008/PL-UBTVQH11号)。 そして、親会社からの借入金もこの資本口座に外貨にて振り込まれていることから、借入金の資本への転換が認められています。 買掛金等その他の債務に関しては、資本口座を経由した払い込みが無いため、資本転換は認められないと解釈されます。
(2)外債(国外借入)の資本転換
上述の通り、資本金払込方法の一つとして親会社からの外貨借入金の資本転換は認められています。 元本に加えて金利の転換も可能ですが、金利分に関しては外国契約者税を控除した額のみ対象となります。 デット・エクイティスワップ(債務の資本転換)実施に際しては、管轄の財務局(2025年4月以降、計画投資局から財務局に管轄権が移譲されています)にて、増資にかかる企業登記証(ERC)の変更手続きを行います。 その後、同じく財務局にて、投資登記証(IRC)の変更手続きを行います。 借入金が中長期借入金(契約期間1年超)である場合、中央銀行での登録がなされているため、目的変更の手続きを行う必要があります。
中国・ベトナムにおける法人税の優遇について
1.中国
(1)企業所得税法に定められた優遇
企業所得税率は25%ですが、企業所得税法・第27条には、ハイテク企業に対する15%の優遇税率、中小企業(小規模薄利企業)に対しては20%の税率が規定されています。
ただ中小企業優遇は、継続的に企業所得税法よりも有利な時限優遇措置が施行されており、現時点では2027年末まで5%の税率適用が認められています(財政部・税務総局公告2023年第12号)。
なお、当該公告における中小企業の定義は、課税所得300万元以下、従業員300人以下、資産総額5,000万元以下の全ての要件を満たす企業となります。
(2)地域による優遇
特定地域による優遇税制は原則として採用しない方針が採用されていますが、例外的に以下のような地域の奨励業種企業に対して15%の優遇税率が採用されています。
1)中西部(財政部・税務総局・国家発展改革委員会2020年第23号)
中西部地域(重慶、四川、貴州、雲南、チベット、陝西、甘粛、青海、寧夏、新疆=兵団含む、内モンゴル、広西等12省区市)の奨励分類企業に対しては、15%の優遇税率が適用されます。
2)大湾区(広東省・香港・マカオ)
大湾区政策に基づき、南沙・横琴・前海湾に設置された特別区域の奨励分類企業に対しては、15%の優遇税率が適用されます。
3)海南島自由貿易港(財税[2025]3号)
海南自由貿易港の奨励分類企業に対しては、15%の優遇税率が適用されます。
2.ベトナム
(1)中小企業への優遇
法人税率は20%ですが、法人税法・第10条には中小企業に対して優遇税率が規定されており、年間収益が30億ドン以下の企業は15%、30億ドン超500億ドン以下の企業は17%の軽減税率が適用されます。 ただし、中小企業に該当しても、関連会社が中小企業でない場合は軽減税率の対象外となります。
(2)事業内容・地域による優遇
法人税法・第12条において、優遇対象(特定の事業内容・地域への投資)が定められており、同法・第13条において、優遇税率が定められています。
1)優遇税率10%・期間15年
ハイテク法に基づく優先高度技術の応用・開発、ソフトウエア製品の生産、再生可能エネルギー・クリーンエネルギー・廃棄物からのエネルギーによる発電、環境保護、首相決定による浄水場・発電所・橋梁・道路・鉄道・空港・港湾等のインフラ開発、社会・経済的に特に困難な地域、ハイテクパーク、社会・経済的に特に困難な地域・困難な地域に所在する経済区等に対しては、10%の優遇税率が15年間適用されます。
2)優遇税率10%・全期間
林業、社会・経済的に特に困難な地域・困難な地域・経済区・ハイテク区における養殖・農作物・水産物加工、森林植樹・保護、動植物の繁殖・交配、製塩、農作物・水産物・食料品の保管、首相決定に基づく教育・訓練・職業訓練・医療・文化・スポーツ、社会住宅建設、出版、報道等に対しては、10%の優遇税率が全期間適用されます。
3)優遇税率15%・全期間
社会・経済的に特に困難な地域・困難な地域・経済区・ハイテク区以外での養殖・農作物・水産物加工等に対しては、15%の優遇税率が全期間適用されます。
4)優遇税率17%・期間10年
高品質鋼の生産、省エネルギー製品、農林水産業・製塩用の機械・設備、灌漑(かんがい)・排水設備、飼料、自動車の生産・組み立て、中小企業支援のためのコワーキングスペース事業、社会・経済的に困難な地域、社会・経済的に特に困難な地域・困難な地域に所在しない経済特区等に対しては、17%の優遇税率が10年間適用されます。
5)優遇税率17%・全期間
人民クレジットファンド、銀行協同組合、マイクロファイナンス等に対しては、17%の優遇税率が全期間適用されます。
以上