中国・ベトナムにおける企業の移転、法人・組織と住所について【水野コンサルタンシー中国・ベトナムビジネス情報】ダイジェスト版Vol.114

2025-11-12

【中越ビジネスマニュアル 第 114 回】

中国・ベトナムにおける企業の移転について

1.中国

(1)概要

中国で法人を設立する場合、原則として社名は「商号+業種+地域+会社形態」を含む必要があります。 この地域には、ほとんどの場合「市」が使用されることからも分かる通り、市が重要な管理単位となっており、これをまたぐ移転は極めて困難でした。 ただ2025年5月23日に、「企業移転登記のワンストップ処理の効率化推進に関する指導意見(国市監注発[2025]48号)」が公布されたことにより、状況が変わることが予想されます。

(2)区をまたぐ移転

現在では、同一市内で区をまたぐ移転は比較的容易になっていますが、10年程度前まではこれも困難でした。この要因となっていたのは税務関係です。

当時は、区をまたぐ移転に際してはまず転出地の所管税務局での登記を抹消し、転入地で新たに税務登記をする必要がありました。この際、転出地の税務局が申請を受理せず、2~3年放置するようなケースがあり、企業が移転を断念するようなことにつながったものです。これが転出地での手続きを不要とすることで、区をまたぐ移転が容易になりました。

(3)市・省をまたぐ移転

上記(1)の指導意見では、国家市場監督管理総局は既に省をまたぐ移転システムを開発しており、各省級市場監督管理局は25年7月末までに、このシステムに併合されることを指示しています。 また、移転を希望する企業は「移転先の市場監督管理局」に申請することで申請手続きが完了し、移転登記書類を転出地の市場監督管理局にデータ送信。転出地の市場監督管理局はデータ受信から30日以内に、全ての登記書類を転入地の市場監督管理局に移送することが義務付けられます。

また、移転データは税務機関・住房積立金管理中心、人力資源社会保障部門に送られ、社会保険・住宅積立金などに関する移管処理が行われます。

2.ベトナム

(1)概要

ベトナムで法人を設立する場合、原則として「市」もしくは「省」の管轄機関がライセンスを発給します。また、税務局の管轄も市・省が重要な管理単位となるため、これをまたぐ移転は極めて困難です。

(2)区をまたぐ移転

同一省・市内で区をまたぐ移転は、管轄の財務局にてERC(企業登記証明書)修正の申請を行うことで可能です。 以前の管轄は計画投資局でしたが、25年4月の省庁再編により、現在は財務局が管轄となっています。また、25年7月には行政区画の大幅な再編が行われました。 ホーチミン市は旧ビンズオン省、バリア・ブンタウ省をも含む巨大な規模となっており、行政機能の統合に支障が出ています。 現在、ERCの発給手続きが大幅に遅延している点に留意が必要です。

なお、旧行政区画は「市」「区(District)」「坊(Ward)」と細分化されていましたが、現在ホーチミン市ですと、「区」が無くなり、「市」「坊(街区とも和訳)」のみとなっています。 例えば、旧ホーチミン市1区ベンゲー坊は、現在ホーチミン市サイゴン坊となっています。同一省・市内であれば、坊をまたぐ移転は同様に可能です。

(3)市・省をまたぐ移転

企業の市・省外移転は極めて困難ですが、その主たる理由は税務登記の移転です。

税務登記の変更は、登記をそのまま移動するのではなく、既存の税務登記をまず抹消し、その上で移転先の所管税務機関で、新規の登記を行うことになります。

新規の税務登記は、原則として3営業日以内で手続きできますが、その前の税務登記抹消が難しく長期化するケースがあります。 これは、税務登記抹消に際しては確定申告を行う必要があり、会社清算時と同等の税務調査が行われるからです。 また、多額の追徴課税が見込まれるようなケースでない限り、税務局による迅速な対応も期待できません。


中国・ベトナムにおける法人・組織と住所について

1.中国

(1)同一住所の複数組織使用

中国では、長く一住所一組織という考え方があり、一住所(不動産権利証発行単位)につき、一組織(法人、事務所等)のみ登記が認められていました。これが2014年の商事登記制度改革より、徐々に規制緩和が実施され、複数組織の登記が認められるようになっています。

ただし、規制緩和内容は市によって異なり、広東省が総じて寛容な姿勢を取っています。 広州市では、「商事主体の住所・経営場所条件の更なる緩和に関する意見(穂府弁規[2024]4号)」・第一条に、不動産所有者もしくは授権された経営管理者の書面同意に基づき、複数の商事主体が同一住所に登記もしくは経営場所の住所として登記することを認めると規定しています。深セン市も同様です。 一方、上海市は消極的で、「上海市経営主体住所登記管理弁法(滬府弁規[2024]2号)」・第十三条に、同一住所の使用は「経営主体間に出資関係がある場合」等を条件付けています。

ちなみに、サービスオフィスは地域によらず問題なく受け入れられており、正規の営業許可を取得したサービスオフィスの場合、そこでの法人登記などは問題なく受理されます。

(2)登記住所貸し

中国の企業管理概念上、ペーパーカンパニーは認められず、法人登記に際しては実態あるオフィス、人員を備える必要がありました。 もちろん、実際にはバーチャル住所が使用されるケースも少なからずありましたが、法的にはグレーな状況でした。 これが現在では「企業集中登記」・「集群注冊託管」という形で、住所貸しが認められています。

根拠規則は、上海市の場合は「上海市経営主体住所登記管理弁法(滬府弁規[2024]2号)」・第十条。広州市の場合は「商事主体の住所・経営場所条件の更なる緩和に関する意見(穂府弁規[2024]4号)」・第四条となります。

このような登記住所貸し業務を行う企業は、集群企業住所托管・商務秘書服務という経営許可が必要です。 また、会計士事務所・法律事務所もこのような業務を行うことが認められています。

2.ベトナム

(1)同一住所の複数組織使用

「ベトナムに駐在員事務所の形態にて進出しているが、今後は現地法人も設立予定なので、同一住所に登記をしたい」、「取引先がベトナムへの進出を希望しているので、オフィスの一部を転貸したい」。このようなご相談を受けることがあります。

ベトナムでは、厳密には同一住所を複数の組織が使用することはできませんが、実務的な解決方法はあります。 原則として物件の転貸はできません(不動産業者は除く)ので、賃貸人と個別に契約を結ぶ必要があります。 例えば、駐在員事務所が101号室を賃借しており、その一部を現地法人の設立申請に使用したい場合、101号室を101―1号と101―2号とに分けて、賃貸人と契約を結び直すことで、実質的に同一住所の複数組織での使用が可能となります。

ちなみに、正規の営業許可を取得したサービスオフィスの場合、そこでの法人登記などは問題なく受理されます。

(2)登記住所貸し

ベトナムの企業管理概念上、ペーパーカンパニーは認められず、法人登記に際しては実態あるオフィスを備える必要があります。 ただし、バーチャルオフィス事業を規制する法的枠組みがないため、バーチャル住所を提供するサービスは存在しています。 外国企業の駐在員事務所や外資法人の登記に際しては、管轄当局がオフィスの実在性に関する審査を行いますので、バーチャル住所を使用することはできません。 ベトナム資本の企業に関しては、オフィスの賃貸借契約書がなくとも登記できることがあるため、ペーパーカンパニーが存在することが推察されます。

以上