中国・ベトナムにおける流通税の納税人区分・駐在員事務所の開設について【水野コンサルタンシー中国・ベトナムビジネス情報】ダイジェスト版Vol.112
2025-09-16【中越ビジネスマニュアル 第 111 回】
中国・ベトナムにおける流通税の納税人区分について
1.中国
(1)増値税の一般納税人・小規模納税人
増値税の納税義務者は、一般納税義務人と小規模納税人に分けられます。
一般納税義務人とは、増値税の仕入控除・輸出還付の適用が受けられる納税義務者を指します。 一方、小規模納税人とは、一般納税義務人の要件を満たさない納税義務者であり、簡易納税方式が適用される納税者を指します。 小規模納税人の場合は、仕入控除・輸出還付の適用を受けることができません。
小規模納税人は、税率が3%と低い(不動産業の場合のみ5%)ですが、仕入控除・輸出還付が受けられませんので、物品売買に際しては一般納税人よりも不利になります。
一方、役務サービスの場合は、仕入れがない場合もあるため(この場合、仕入控除が不要になる)、税率が低い小規模納税人の方が有利になる場合もあります。
(2)一般納税人資格取得条件
一般納税人資格の基準は、「増値税一般納税人登記管理弁法(国家税務総局令2017年第43号)」により、年間500万元超の課税売上高が基準となりますが、売上基準を満たさなくても、健全な会計制度を有していれば、一般納税人資格申請は可能です。
ここでいう「健全な会計制度を有している」とは、実務的には適切な経理担当者を採用していること、もしくは正規の記帳代行資格を有する記帳代行会社に会計処理を委託していることを意味します。
なお、納税者が一般納税人ではなく小規模納税人を希望する場合でも、課税売上高が500万元を超過した場合、その月(もしくは四半期)の申告期限終了後、15日以内に一般納税人登記申請を行うことが義務付けられます。
2.ベトナム
ベトナムの流通税である付加価値税(VAT)の納税人区分(一般納税人・小規模納税人)と一般納税人取得区分について解説します。
(1)付加価値税の一般納税人・小規模納税人
付加価値税の納税義務者は、一般納税義務人と小規模納税人に分けられます。
一般納税義務人とは、付加価値税の計算方法として控除方式が適用される納税義務者を指します。 控除方式は、売上VATから仕入VATを控除し計算する方法ですので、付加価値税の仕入控除とともに輸出還付制度が定められています。
一方、小規模納税人とは、一般納税義務人の要件を満たさない納税義務者を指し、付加価値税の計算方法として、簡便法である付加価値に基づく直接方式(付加価値に対して1%から5%の税率を直接乗じて計算する方式)が適用されますので、仕入控除・輸出還付の適用を受けることができません。
ベトナムの小規模納税人は、年間売上が10億VND(約500万円)に満たない個人事業主や小規模組織ですので、一般的な外資企業は該当しませんが、中国同様に仕入れがある事業形態では、仕入れ控除が出来ない点がデメリットとなります。
(2)一般納税人資格取得条件
付加価値税の一般納税人資格取得基準は、会計およびインボイスに関する法律に基づき活動する組織であり、年間売上が10億VND以上であることが求められています。ただし、年間売上が10億VND未満の組織であっても、会計およびインボイスに関する法律に基づき活動する組織は、自発的に一般納税人として控除方式の登記を行うことが認められていますので、一般納税人・小規模納税人の選択が可能です。
中国・ベトナムにおける駐在員事務所の開設について
中国・ベトナムにおける外国企業の駐在員事務所の開設について解説します。
1.中国
中国において、外国企業の駐在員事務所は、常駐代表処と呼称されますが、開設の根拠となるのは、「外国企業常駐代表機構登記管理条例(国務院令2010年第584号)」です。
(1)開設フロー
常駐代表処の開設はまず、オフィス不動産を賃借することから始まります。
この不動産物件は、サービスオフィスでも大丈夫ですが、住居用マンションでの登記は通常受理されません。また、不動産賃貸契約は、一般的に12カ月以上の期間が必要となります。
オフィス不動産契約後、申請書類に住所を含む必要事項を記載した後に、所管行政機関である市場監督局に提出します。申請は通常5営業日で受理されます。
市場監督局での手続き(常駐代表処の開設)後、公用印の作成と登録、税務機関での登記と実名認証、銀行口座開設となりますので、書類作成期間を含めると、2~3カ月の作業期間となります。
なお、税務機関での実名認証、銀行口座開設時は、首席代表者が窓口に出向く必要がありますので、その訪問スケジュールも作業時間に影響を与えます。
(2)代表登記
常駐代表処に派遣される外国人は、常駐代表登記を前提に就業許可を取得します。
常駐代表登記が認められるのは4名以内です(首席代表1名、一般代表3名以内)。
(3)現地採用社員
現地採用社員は直接雇用不可であり、人材会社からの派遣を受ける形となります。
中国では、従業員の直接雇用が推奨されており、「労務派遣暫定規定(人力資源社会保障部令2014年第22号)」・第4条には、派遣労働者は10%を超えてはならないと規定されています。 ただし、常駐代表処は例外であり(直接雇用ができない)、派遣社員の受け入れという形となります。
(4)認められる活動
収益獲得活動は認められず、以下の内容(補助的活動)に限定して認められます。
(一)外国企業の製品またはサービスに関するマーケット調査、展示、宣伝活動
(二)外国企業の製品販売、サービス提供、国内買付、国内投資に関する連絡活動
2.ベトナム
ベトナムにおいて、外国企業の駐在員事務所は「Representative Office」の略語として、レップ・オフィスとも呼称されます。
開設の根拠となるのは、「商法(第36/2005/QH11号)」・「外国企業の駐在員事務所等設立に係る政令(第07/2016/ND-CP号)」であり、以下のような内容が規定されています。
(1)代表登記
代表登記が求められるのは首席代表1名です。代表登記を前提に、就業許可を取得します。
(2)現地採用社員
2021年2月15日以降、現地採用社員の直接雇用は認められています(政令・第152/2020/ND-CP号)。
(3)認められる活動
収益獲得活動は認められず、以下の内容(補助的活動)に限定して認められます。
(一)連絡活動 (二)市場調査 (三)外国企業の事業促進
(4)オフィス場所
「駐在員事務所は、ベトナム法に準拠した安全、労働衛生等の条件を満たした場所に設置すること」と規定されています。 住居用ビルは登記に制限がかかる等、一定の条件は存在しますが、外国企業が自ら住所選択をすることが可能です。 ただし、オフィス物件を賃貸できるのは、一定の条件を満たした事業者に限られますので、既に外国企業の駐在員事務所や外資企業が入居しているオフィスビルであれば、その物件は賃借可能であることが推察されます。 賃貸人の不動産事業者としてのライセンス、物件に関する土地使用権、建物所有権、建築許可、防火性、安全性、環境影響評価等の証明書が外国企業の駐在員事務所の設立申請には求められますので、ベトナム内資企業が登記されている物件だからといって、外国企業が同様に登記できるとは限らない点には注意が必要です。
以上