中国・ベトナムにおける貿易取引に関するクレーム対応・増値税/付加価値税について【水野コンサルタンシー中国・ベトナムビジネス情報】ダイジェスト版Vol.111
2025-08-12【中越ビジネスマニュアル 第 111 回】
中国・ベトナムにおける貿易取引に関するクレーム対応について
1.中国
(1)貨物代金とクレーム代の相殺決済
1)相殺可否
中国の貨物代金決済に際しての核銷手続き(通関実績と決済金額の個別事前確認制度)は、2012年8月1日に廃止され、現在では貨物代金とクレーム代の相殺決済は銀行審査のみで対応可能です(外貨管理局の審査は廃止)。
貨物代金の相殺が認められるかどうか。認める場合には、どのような証憑を要求するかは銀行が判断することとなります。
2)相殺に関して考慮すべき外貨管理の問題
外貨管理局は、企業の直近12カ月の通関実績と決済実績のバランスをモニタリングしています。このため、銀行が決済を認めたとしても、相殺により、乖離(かいり)が大きくなると外貨管理局の立ち入り検査を受ける可能性があります。
3)相殺に関して考慮すべき税務上の問題
中国からの輸出貨物代金とクレーム代の相殺を行う場合、輸出代金の一部が未回収になり、これが増値税輸出還付に影響を与えます。
国家税務総局公告2022年第9号では、増値税輸出還付申請の可否は、企業の判断に委ねられるものの、企業はクレームの妥当性を証明する証憑(品質クレームの場合は検査機関の品質証明等)を用意・保管し、税務調査が実施された場合にはこれを提示して状況説明をすることが義務付けられています。
(2)クレーム代の対外送金
クレーム代金を単独で対外送金する場合、過去には裁判所の判決書等を外貨管理局に提示し、許可を受ける必要がありました。2013年9月1日以降は、国外で発生した賠償金については、金額の多寡を問わず銀行審査により対外送金が可能となりました(国家税務総局・外貨管理局2013年第40号)。
2.ベトナム
(1)貨物代金とクレーム代の相殺決済
1)相殺可否
ベトナムでは、貨物代金とクレーム代の相殺決済は可能ですが、商法、税法に留意して行う必要があります。
2)相殺に関して考慮すべき商法上の問題
契約義務違反に対する違約金の上限は契約額の8%が上限となっていますので、8%超える違約金の支払い・相殺はできません。ただし、ベトナムでは違約金の取り決めは実損害への損害賠償請求を妨げるものではないため、別途の請求が可能です。
3)相殺に関して考慮すべき税務上の問題
ベトナムからの輸出貨物代金とクレーム代の相殺を行う場合、法人税の算定において、クレーム代を損金算入するためには、企業はクレーム代の存在・適正性を立証する必要があります。立証には契約書、通関書類、相殺に関する契約書等を具備するとともに、都度の相殺に際しても、相殺内容、相殺額を明示した合意書の作成が必要です。特にクレーム代に関しては、客観性、合理性の観点から、クレームに至った経緯、処理方法、合意内容を文書化するとともに、対象となった物品写真の保全も必要となります。
(2)クレーム代の対外送金
クレーム代金を単独で対外送金する場合、契約書、合意書等の証憑を銀行に提示することにより可能です。
中国・ベトナムにおける増値税・付加価値税について
中国とベトナムの付加価値税について解説します。
1.中国
中国では1994年に流通税改革が実施され、その際に増値税が導入されました。
現在の増値税は、1994年より増値税が課税されていた内容(財貨に対する増値税)と、以前は営業税(廃止)の課税対象であったもの(役務に対する増値税)に分かれます。
(1)根拠規則
1994年1月1日に増値税暫定条例が施行されています。
当時は、増値税の課税対象行為は「物品売買および加工補修役務」のみであり、その他の経済行為は営業税の課税対象とされていました。
これが営改増と呼ばれる流通税改革(流通税の統合)により、2016年に営業税が廃止され、流通税は増値税に統合されました。このように、営業税から増値税に課税変更された内容に対しては財税[2016]36号に基づき課税が行われています。
増値税は根拠法が2つに分かれていますが、26年1月1日に「増値税法」が施行される予定であり、これにより根拠法が統合されます。
なお、増値税法施行と同時に増値税暫定条例は廃止されます。
(2)税率
増値税の税率は、以下の通り定められています。
1)13%
物品販売、加工補修役務、有形資産リース、輸入貨物
2)9%
物流、郵便、基礎電信、建築、不動産賃貸、不動産販売、土地使用権の販売、特定物品の販売(農産品・食糧、水道水、暖房、石油ガス、天然ガス、食用植物油、冷気、熱水、ガス、住居用石炭製品、食用塩、農機、飼料、農薬、農業用フィルム、化学肥料、メタンガス、メチルエーテル、図書、新聞、雑誌、映像製品、電子出版物)
3)6%
サービス、無形資産
なお、物品の輸出および中国本土内単位・個人が提供する一定のクロスボーダーサービス、無形資産販売に対しては、ゼロ税率が適用されます。
また、簡易納税方式適用(小規模納税人)に対しては、3%の税率が適用されます。
2.ベトナム
ベトナムの流通税は、付加価値税と特別消費税となります。そのうち特別消費税は特定物品・サービスのみに課税される奢侈税です。
(1)付加価値税
1)付加価値税の概要
付加価値税は、物品売買、役務提供、金融サービスなど全ての商行為を課税対象としていますが、中国と異なり、技術・知的財産の移転、コンピューターソフトウエアなどの無形資産売買は非課税となっています。また、付加価値税と営業税という区分は無く、財貨と役務による区分もありません。付加価値税の基本税率は10%であり、0%、5%の軽減税率対象が定められていますので、それ以外の物品・サービスに対しては10%の基本税率が適用されます。
2)税率
●0%軽減税率対象=輸出する物品および国際輸送。輸出する非課税対象物品およびサービス。ただし、以下の物品・サービスは除く:技術・知的財産の国外移転、国外の再保険、金融サービス、資本譲渡、通信・郵便、未加工の輸出資源・鉱物。
●5%軽減税率対象=製造・生活用水、肥料、肥料用鉱石、動植物用殺虫剤・成長促進剤、牛・家畜等飼料、農業用水路・溜池等の造成、作付け・害虫駆除、農産品の半加工・保管、半加工のゴム・樹脂、漁網用の網・縄・繊維、生鮮食品、製糖、黄麻・竹・スゲ・籐・ヤシ・ウォーターヒヤシンス製品、農産手芸品、半加工綿、新聞印刷用紙、農業用機械・設備、医療用機器、医療用ガーゼ・包帯、予防・治療薬、医薬品・原材料、黒板・チョーク・定規・コンパス等の教材・学習道具、教育・研究・科学実験に用いられる器具、文化活動、展示、体育・スポーツ活動、芸術活動、映画製作、映画輸入・配給、子ども用ゲーム、書籍(新聞、学術書等を除く)、科学技術サービス、文化住宅の販売・リース・割賦販売。
※25年7月1日より、映画製作・輸入・配給などは5%軽減税率の対象外となります(改正付加価値税法・第48/2024/QH15号)。
●10%基本税率対象=0%・5%軽減税率対象以外の物品・サービス。
景気浮揚のための企業支援策として、25年6月末までは2%が減税され、8%税率が適用されていますが、財務省は現在、26年12月末までの減税期間延長に向け法整備を進めています。なお、通信、IT、金融、保険、証券、不動産、鉱業(石炭採掘を除く)、石油、化学、特別消費税対象となる商品・サービスは減税の対象外です。
以上